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虚構と現実が入り乱れる今敏作品【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.61】

虚構と現実が入り乱れる今敏作品【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.61】

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妄想と現実の境『パーフェクト・ブルー』



 去る8月24日は今敏監督の命日だった。ぼくは亡くなった後でその作品世界と出会ったのだが、他のアニメーションではあまりお目にかからない、異様で強烈な印象を抱いたのを覚えている。過度にアニメ的でない、実際にいそうな生々しい表情を持つキャラクターたち、緻密に描き込まれたリアルな情景が歪んでいく展開。最初にアニメという虚構が枠としてあり、その中に描かれた現実がさらに虚構へと転じていく。そんな折り重なった入れ子的な表現にぐいぐいと引き込まれた。


 特にそれが顕著なのは『パーフェクト・ブルー』である。アイドルを引退し、女優として活動を始めた主人公・未麻が、芸能界で徐々に消耗し、熱狂的なストーカーの影やアイドル時代の自分の幻影に怯え、ついには周囲で殺人事件が起こっていくというスリラーもの。前述したような妙に生々しい人物たちが全員怪しげで、世紀末特有の不穏な空気も手伝って、終始観ていて落ち着かない。次に誰がなにを言い出し、未麻がどんな目にあっていくのか、ハラハラして観ていたものである。


 アイドルから女優へと転向するも、ファンの反応はどこか冷たく、小さな役を与えられながらも、脚本家の思いつきで唐突なレイプシーンを演じさせられたり、出演作の宣伝も兼ねてヌード写真を撮影されたりと、決意して歩みだした道で、未麻は男たちに消費されていくわけだが、それに伴ってアイドル時代の自分がことあるごとに現れ、これがアイドルをやめてまでやるようなことなのかと問い詰めてくるようになる。いつしか未麻は精神的に追い詰められ、仕事で演じている役柄や殺人事件の犯人さえも彼女の人格と交錯していき、展開は観る者を混乱させる。


 そんな中でもお気に入りは未麻の部屋のシーンである。マンションの小さな一室で、見たところ1Kといったところだが、雑誌や他愛ない小物、初代プレイステーション、時代を感じるドライフラワーの飾り、テレビデオ(これさえあれば何でも観られる!)、熱帯魚の入った水槽などが並んだ一人暮らしの情景が、やはりリアルに描き込まれていて、時代感を帯びた若い女性の部屋が、画面にギュッと凝縮されているのがいい。特に好きなのは何者かが開設した未麻のホームページを閲覧するため、新しく購入したマッキントッシュ・パフォーマ(自分が実家で使っていたのと同じだ)を使うシーンで、画面の中まで細かく描かれているのはもちろん、まだパソコンやインターネットが生活の中心に鎮座する前の雰囲気といったものがなんだか心地よい。


 謎のサイトのタイトルはその名も「未麻の部屋」で、本物の部屋の中でこのサイトを覗いているというのがまた入れ子的な作りとなっている。未麻はこのサイトを通してストーカーの存在を危惧し、また部屋に帰ってひとりになったところで不満を爆発させたり、アイドル時代の自分の幻影に問い詰められもし、たびたび登場する「部屋」は本作でもキーとなっている。クライマックスにて、とうとう幻影の「正体」と対峙するのもこの部屋でのこと。この部屋は未麻の妄想と現実の境なのだ。リアルに描き込まれているからこそ、部屋が妄想によって歪んでいく様が際立つ。




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