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虚構と現実が入り乱れる今敏作品【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.61】

虚構と現実が入り乱れる今敏作品【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.61】

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映画と現実を駆け巡る『千年女優』





 未麻とは全く異なる道を歩んできたひとりの女優が主人公の『千年女優』は、映画への愛に溢れる作品でもある。引退した大女優・藤原千代子のもとに、彼女の大ファンでそのドキュメンタリーを制作しようという立花がやってきて、インタビューを開始。30年ぶりに承諾した取材で千代子が語り出したその半生をたどることで、日本映画史の華麗な絵巻物も観ることができる。馬に乗った千代子が戦国時代の合戦を駆け抜け、そのまま幕末、明治、大正時代には人力車へと移り変わっていく横長のシーンが素晴らしい。小津安二郎や黒澤明、ゴジラなどへのオマージュも観ていて楽しい。


 しかし、段々と千代子の記憶と映画の内容が入り混じって混濁していることがわかってくる。どこまでが実際の経験でどこからが映画の話なのか。これは『パーフェクト・ブルー』でどこからが妄想で現実か、といった混乱と同じで、ここでも虚構と現実の境がぐらつき始める。今回はそこに半ば狂言まわしとしてインタビュアーの立花が積極的に干渉し、回想の中で千代子を手助けするところがおもしろい。


 千代子の半生の軸には、少女時代に官憲に追われているところを助けた「鍵の君」という男がいた。名前も知らない彼は、首から下げていた「一番大事なものを開ける鍵」を千代子に渡して再会を誓い合う。ここから千代子の、鍵の君との再会を夢見る人生が始まる。鍵の君を追うように、彼女は映画から映画へと駆け抜けていくが、そのスピード感もまた本作の楽しさだろう。


 今回好きなところはいろいろな時代、ジャンルを見せてきた千代子の映画世界がSFへと到達するくだり。映画内映画であるにも関わらず凝ったデザインのロケットに、これまたスタイリッシュな(それでいて映画の小道具であるという偽物っぽさもちゃんとある)宇宙服に身を包んだ千代子が乗り込むのだ。月面でとうとう鍵の君の描いた絵を見つけるが、絵の中の雪原を歩いている人影に千代子はどうしても追いつけない(雪原と月面が交錯するところも見事)。月面で絵を見つけるシーンは、それよりも前に空襲の跡の焼け野原で、やはり鍵の君の残した千代子の絵を見つけるシーンと重なる。月面という一面死の世界と、空襲という破壊の跡で見つける絵。後者にしても実際にそんな絵を見つけたかどうかは定かではないが、千代子がどんなに辛く、気持ちの荒廃したときでも、少女時代に出会った鍵の君が、どこかで彼女の希望となっていたのではないか。


 現実の世界では千代子は倒れ、病院に運ばれる。目を閉じて長い人生に幕が降りようとしているとき、宇宙服の千代子がロケットで旅立とうとする。映画の最先端が特殊効果をふんだんに使うSFで、宇宙が死と新しさを兼ねた世界だからこそ、映画の終わりと千代子の旅立ちを象徴していると言える。『千年女優』は映画と現実が交錯するお話でもあるが、同時に記憶と現実の物語でもあった。一体どれが本当のことなのか?そんなことは実は重要ではなく、千代子がその「物語」をどういうふうに認識してきたのか、彼女の人生と映画、そして鍵の君への想いが、いかに密接に繋がって切り離せないものだったのか。それがわかればいいのである。





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