名匠・瀬々敬久監督がまたひとつ、混迷の世を穿つ力作を生み出した。中山七里のベストセラー小説を映画化した『護られなかった者たちへ』(10月1日公開)だ。
東日本大震災から10年目の宮城・仙台。周囲から「善人」と評される好人物たちが相次いで消息を絶ち、その後拘束された状態で餓死するという残忍な連続殺人事件が発生。事件の捜査を始めた刑事・笘篠(阿部寛)は、刑務所から出所したばかりの利根(佐藤健)という男に行き当たる。
東日本大震災によって運命を捻じ曲げられた人々の壮絶な哀しみを描きつつ、「生活保護」という制度がはらむ脆弱性と問題点にも言及する『護られなかった者たちへ』。現代社会に切り込み、いまを生きる私たちの価値観を揺さぶる骨太作だ。ただ、瀬々監督の見解は、少々異なっていた。真に時代の本質を見つめる彼の言葉に、ぜひ目を向けていただきたい。
Index
- 「被災地に生きている人々」を描く
- ドキュメンタリー映画の経験を経て、設定を変更
- 真に迫った演技を引き出すための、“助走”の確保
- コロナ禍による撮影延期がもたらした苦悩と効能
- 時代の切迫によって、観客が注目するポイントが変動
「被災地に生きている人々」を描く
Q:『護られなかった者たちへ』、素晴らしい力作でした。東日本大震災と生活保護をテーマにした映画を、メジャー配給作品で作る、という部分に非常に大きな意義を感じます。
瀬々:おっしゃる通り、松竹さんというメジャーなエンターテインメントの映画会社でこういう題材をやる意味は、オファーをいただいた際に非常に感じたところです。東日本大震災や福祉問題というと、どうしても硬くなるというか、社会的な問題定義に寄りがちになってしまう。ただ本作はそうではなく、佐藤健さんや阿部寛さんに出演していただき、エンターテインメントの要素を加味しながら社会問題を扱っていくことに意義を感じました。
そういった意味では、こうした大掛かりなものはこのような座組でないと作り得ないですから、“場所”があって初めてできた映画だとも思います。
『護られなかった者たちへ』©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
Q:同時に、瀬々監督のこれまでの監督作には、社会との接地面がしっかりとあるかと思います。ご自身でも惹かれるところはあるのでしょうか。
瀬々:現代社会に横たわる問題を描いたものは好きですが、社会問題だけを扱っていても……という想いもあります。一番面白いな、興味深いなと思えるのは、やはり「そこに生きている人々」ですね。
今回でいえば、東日本大震災を経験した人々を描くということ。たとえば、阿部さん演じる刑事の笘篠が、震災で家族を亡くしているところなどですね。そのような想いがあり、利根(佐藤健)、けいさん(倍賞美津子)、家族を亡くした小学生との出会いも、原作とは変えて東日本大震災の避難所にしました。