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『かそけきサンカヨウ』今泉力哉監督 脚本が全てではなく現場で起こることを優先する【Director’s Interview Vol.150】

『かそけきサンカヨウ』今泉力哉監督 脚本が全てではなく現場で起こることを優先する【Director’s Interview Vol.150】

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迷っている大人たち



Q:役者さんと最初にお会いする際、どんなことを話されるのでしょうか?脚本を渡す際など、何かお伝えすることなどはあるのですか。


今泉:あんまりないですね。本読みができる時はそのタイミングが初顔合わせになりますし、本読みができない時は衣装合わせが最初になります。そのときに少しだけ話をしたりすることはありますが、「こういう話でこういうキャラクターで」というように、こちらから説明することはあまりなくて、どちらかというと「読んでみてどう思いましたか?」「気になったことや違和感あるところはないですか?」と、役者さんに聞くことの方が多いですね。


今回は子供たちもそうですが、新さんに助けられた部分がけっこうありました。髪型や服装から、陽との距離感まで、ご自身でアイデアを提示してくれたんです。直と陽はずっと二人で過ごしてきたから、ともすれば二人の距離感が恋愛関係のように近く見えすぎちゃうのではないかと、俺は結構気にしてたんですよ。でも新さんにその話をすると、「場面とか状況によってはそういう風に見えても良いんじゃないですか」と言ってくださったんです。


 『かそけきサンカヨウ』© 2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会


危うさも含めて、ちょっと温度と距離が近すぎる場合があるかもしれないけど、二人でずっと過ごしていた時間があるから、それが普通なんでしょうと。それで「なるほど、そうか」と、俺が気にし過ぎていたのかもしれないなと。そう気づかされましたね。


Q:井浦新さん、菊池亜希子さん、西田尚美さんら、大人たちの優しく包み込むような視線もとても印象的でした。大人チームとはどのように話されたのでしょうか。


今泉:特に細かい演出はしてないですね。西田さんは『あの頃。』(21)でご一緒したのですが、そのときは1シーンだけだったので、今回またご一緒できて嬉しかったです。菊池さんは、過去にお芝居などは観たことがあったのですが、どんなトーンでどういうお芝居をするかまでは分かっていませんでした。でもこちらで細かく演出する前に、最初からあの母親の温度で現場にいてくれたんです。だから逆に、菊池さんの温度に乗っからせてもらいました。



『かそけきサンカヨウ』© 2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会


これは原作の魅力でもあるのですが、この映画に出てくる大人たちは、「これが正解だ」と決めつけない人たちばかりなんです。お母さんが出て行ったことついて、父が娘に話す場面でも、「あの時はああする(離婚する)のがベストだと思っていたけど、実際、今でも分からない」と、ちゃんと迷っていることを伝えますし、「(大人になっても)できないことだらけ」という、象徴的なセリフも出てきます。


子供がそれで納得できるかどうかは分からないし、場合によっては子供の方が大人っぽい瞬間もあるけれど、大人たちはみんな迷いながら、子供たちと対等な目線で話をしている。その視線が、優しさや正直さにつながっていると思います。今こうして取材などを受けていく中で自分の中でも反芻しつつ、改めてそんな気がしますね。




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