正解は現場で起きたこと
Q:今お話しされたようなことは、キャストにも伝えたのでしょうか。
今泉:特に俺からは伝えてないですね。今話した父娘の対話シーンも、新さんが「ここのセリフはこう言ってもいいですか」と提案してくださって、「ぜひ、そうしましょう」という具合にやっていきました。実はそのシーンをテストした際に、志田さんがいくつかセリフを飛ばしてしまったのですが、意外と気にならなかったんです。ということは、その(飛ばした)セリフを言わなかったとしても、十分気持ちは伝わっているよねと、みんなで話し合って納得した上で撮っていきました。だから脚本に書かれたセリフが全てではなくて、その場で実際に起こったことを優先したんです。そういう現場で生まれることに対して、すごく楽しめたしテンションも上がりましたね。
陽が怒って義理の妹をどんっと突き飛ばすシーンでも、突き飛ばされた方の義理の妹はまだ幼児だし、父の直は直感的にそっちを助けに行ってしまうだろう、それで陽は悲しくなってしまう。最初はそういう流れを想像していたんです。でも新さんは「いや、でもこのまま直接は(義理の娘の方に)行けないと思うんです」と言ってくれて、陽の方に「おい、どうした⁉︎」と一瞬行ってから、義理の娘の方に向かう。現場でやってみて、そういう流れになっていった。俺の頭にあった方を優先するのではなく、ちゃんと感情に従った動きを提案してくれた。それも決して「絶対こうだよ」という威圧的な物言いではなく、「こうなると思うんですよね」って相談してくれたんです。これは新さんだけでなく、各々のキャストも色んなシーンでアイデアを出してくれました。
『かそけきサンカヨウ』© 2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会
また、石田ひかりさんの芝居も本当に素晴らしくて、個展に来てくれた陽に、気づくか、気づかないか、という微妙な視線をすごく細かくやってくださった。これは俺が勝手に思っていたことですが、そういうシーンでは、ある種、監督と役者の勝負みたいになるんですよ(笑)。「私、ちょっと芝居変えたの気づいてますか」みたいに試されている気がするから、「もちろんです!今は(陽に)ちょっと気づいた方の芝居をしてくれましたよね」みたいな感じになる。いや、俺の勝手な想像なのですが。でも、そういう細かい変化に気づけることで信頼関係が生まれていく気がしています。本当に素敵な方でした。
Q:その場で自然に起きたことが正解だというのは、すごく腑に落ちました。
今泉:読み飛ばしたのはミスかもしれませんが、充分伝わっているのであれば、それで良いのではないか。みんなそう思ったんですよね。そういうのは大事な気がします。