1カメで撮った方がつながる編集の不思議
Q:映画全体を支配する“ゆったりとした時間”があるからこそ、物語を追うことに気を取られず、人の機微がすごく見えてくる。だからこそ、人の気持ちがぐっと伝わってくるのかなと。監督のお話伺って改めてそう思いました。
今泉:視線や動き、全体の流れみたいなことは、今回は他の作品と比べてかなり繊細に編集しています。特にカットバックはめちゃくちゃ細かく詰めましたね。相手を見るタイミングなどは、間尺一つで意味が大きく変わってしまうんです。菊池さんと鈴鹿さんがお茶を飲みながら話している場面なども、話している人と聞いている人の表情のどちらを使ったら良いか、編集でいろんなパターンを試しました。自分の撮り方としては、細かいカット割りはせずに全部通しで撮っているので、編集で悩みながら組んでいくのですが、特にそのシーンは細かく時間をかけて編集しましたね。
また、台所で志田さんが「お母さんって呼んでもいい?」と言って、菊地さんに抱きしめられるシーンがあるのですが、それぞれの表情の切り返しを編集していくと、二人ともどちらの顔も見たくなってしまって、最後はお互いの表情をどちらも使いました。実はそのシーンについては、現場でもう1テイクやるかやらないか迷った部分があったんです。「お母さんって呼んでもいい?」と言われた時の、菊池さんの(心に響いた)リアクションのタイミングが、2〜3箇所あるように見えたんです。言葉を受け止めてから抱きしめるまでの時間がすごく独特だったんですよね。それで実は現場でかなり迷いました。編集することを考えると、もっと、(心に響いたことが)明確に分かりやすい瞬間があった方がいいのかもなとも思ったのですが、でも一方で「そうか、こうなるのか」とも思っちゃったんですよね。だったらそれでいいのかもと思って、結果、現場ではそのリクエストはしませんでした。
そういう「こうすると見やすいよね」ということって、「今までの映画はこうなっているよね」ってことでしかなくて、現場で起きるその時の気持ちを優先することの方がこの作品においては大事だったんだなと、映画ができあがった今はより感じています。
『かそけきサンカヨウ』© 2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会
Q:1カメで何パターンか撮ったものを編集するのだと思いますが、それがつながるというのもすごいですね。
今泉:過去には2カメで長回しを撮ったこともあります。もちろん同じ芝居なのでつなげやすいのですが、逆に1カメで撮って芝居が若干違うからこそ、より成り立つこともあるんです。これは本当に不思議なんですけどね。また、実際に起きているリアルタイムの時間よりも、あえて間を伸ばしたりもするので、2カメだと物理的にはバッチリつながるけど、1カメで芝居が違う方が、実は間が作りやすかったりもするんです。
現場の話で言うと、1カメでアングルをしっかり決めた方が、照明や美術はこだわることができる。2カメだとそのカメラ位置を考慮しなければならないので、その分こだわりが一つなくなってしまうんです。
Q:なるほど…。その話は目から鱗ですね!
今泉:まあ、何を良しとするかですよね。2カメの方がいい場面ももちろんありますし。