『アンテベラム』ジェラルド・ブッシュ＆クリストファー・レンツ監督　名作映画のレンズを使って真実の歴史を描く【Director’s Interview Vol.160】

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2021.11.05稲垣哲也

アメリカでは両極端な評価

Q：ホラー的な要素と歴史劇的な要素が混在していますが、演出上のバランスで意識したポイントはどんな点でしょうか。

ブッシュ：私たちにとって一番大切だったことは、アメリカの歴史を、白人の視点で白人に都合のいいように解釈しないということでした。かといって映画の90分という上映時間の間、「これは間違い」「これも違う！」といった風に説教臭く伝えるのではなく、観客にちゃんと楽しんでもらうことも重要でした。歴史上に奴隷制度というものがあったこと自体が、言ってみればホラーです。『アンテベラム』ではそんな現実を描いた上で、クライマックスでは意外な真実が分かり、さらに映画のステージが一段あがるような作りにしています。

この作品を敢えてジャンル分けするなら「心理スリラー」かもしれませんが、私たちはそれとも違うと思っているんです。この映画をネタバレせずに説明するのは、とても難しいですね(笑)。

Q：本作には政治的なメッセージも多分にあるわけですが、アメリカ国内でのリアクションはいかがでしたか。

ブッシュ：私たちは観客からの強い反発を恐れていません。私たちが成功の定義とするものは、アートが実際に大胆であり、真実を語っているかどうかということなんです。しかし、そういう作品を作ると、やはり反応が極端に分かれます。「Public Enemy」というアメリカでは非常に影響力の大きいヒップホップグループは『アンテベラム』をとても評価してくれました。彼らは「2020年に見た映画でトップ10に入る、非常に影響力のある映画だ」という風に言ってくれたんです。でもその反面「この映画が大嫌いだ」という人も多くいるわけです。そういった風に反応が極端に分かれること自体が、アート作品としての証明だと思っています。

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©Kyle B. Kaplan

脚本・監督：ジェラルド・ブッシュ＆クリストファー・レンツ

“ブッシュ+レンツ”として知られるふたりは、現代社会を揺るがす問題の数々を描く、最も注目を浴びている新世代の映画作家。マイケル・B・ジョーダン、ダニー・グローヴァー、マイケル・K・ウィリアムズ出演の警察暴力に関する公共広告（PSA）「Against The Wall」（16）で話題となる。ジェイ・Zによる4:44プロジェクトのために、政治的メッセージを込めて高く評価された短編音楽映画『Kill Jay-Z』（17）や、社会正義を求める非営利団体”サンコファ”と共同製作した短編音楽映画『The Glass House』（18）の脚本・監督を担当。最近では、アメリカの公立学校制度の人種差別復活に取材したドキュメンタリー『All Deliberate Speed』を製作している。本作はふたりにとって初の長編映画。

取材・文：稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー　マンガに革命を起こした男』（WOWOW）『たけし誕生　オイラの師匠と浅草』（NHK）『師弟物語～人生を変えた出会い～【田中将大×野村克也】』（NHK BSプレミアム）。