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『アンテベラム』ジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ監督 名作映画のレンズを使って真実の歴史を描く【Director’s Interview Vol.160】
今、かつてないほど多くの映画が審判を受けている。人種やジェンダー、文化に関する表現において、現代ではとうてい許容できない内容を含む作品は、どんな名作であろうと厳しい批判の声を浴び、再上映や放送さえできなくなる可能性がある。しかしそれは社会と映画が前に進むためには必要な検証だろう。映画『アンテベラム』はその審判に真っ向から切り込んだ、野心的なエンターテインメントだ。
舞台は南北戦争真っただ中のアメリカ、南軍が支配する農場。そこに暮らす奴隷の黒人女性エデン(ジャネール・モネイ)は日々白人たちに虐げられ、仲間たちは些細なことで殺されていく。そんな地獄を生きる彼女はあることがきっかけで、農場からの脱走を計画することになる…。そして映画は同時に現代に生きる黒人女性ヴェロニカの姿も追う。ベストセラー作家である彼女は、ある日エリザベスという謎の白人女性にインタビューを受ける。それが恐ろしい事件の始まりとも知らずに…。時代を超えた2つのストーリーが、どのように絡み合い収れんしていくのか、その意外な結末は是非劇場で確かめて頂きたい。
悲惨な奴隷制を徹底したリアリズムで描きながら、トリッキーにして秀逸なエンターテインメントへと本作を着地させた2人の監督。彼らは今回が初めての劇映画だという。そのことにも素直に驚くが、本作の真の意図は、実は映画史に残る名作へのアンチテーゼであったことがインタビューで明かされた。2人の監督は映画でどんな高みを目指したか、本稿で是非確認して頂きたい。
Index
黒人にとってホラー映画のような時代を描く
Q:『アンテベラム』はスリラーとして、とても独創的です。近年では人種差別を扱ったホラーやスリラーが多いですが、その中でも際立った一本だと思います。
ブッシュ:ありがとうございます。でも我々は元々ホラー映画を作ろうと思ったわけではないんです。アメリカの「醜い原罪」とも言える人種差別が、再び頭をもたげてきている今の状況自体、黒人である私にとって、まさにホラーだと感じています。アメリカの黒人にとって、そうしたテーマを描くことはバランスがとても難しいんです。だからそういう風に評価してもらえるのはとても嬉しいです。
ただ、やはり私たちはホラー映画を作ろうと思ったわけではなく、今我々が人として、国としてどこに向かっているのか。そういったことを再確認できるもの、そして観た人が議論したくなるような映画を作りたいと思っていました。
『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
Q:近年アメリカでは『ゲット・アウト』(17)のような、人種差別をテーマにしたスリラーやホラーが増えていると思いますが、その傾向をどう思いますか?
ブッシュ:ハリウッドでは一つの作品が成功すると、同じような作品がいくつも作られますが、私たちはそういう流れに乗ろうとしたわけではありません。今は、政治的、社会的、経済的に様々な問題があります。 LGBTQ をはじめ気候変動など、緊急を要する様々な課題が人類に突きつけられています。それを私たちは物語という形で追求し、伝えていきたいと思っているのです。
流行っているからそのジャンルの映画を作るということではなく、その作品を観ることによって既成の概念が変わってしまう、そして今まさに時代が変わりつつあるんだと感じさせるようなもの。今よりもっと良い未来があると想像させるような映画こそが、私たちの理想です。