第76回毎日映画コンクール・アニメーション部門大藤信郎賞を受賞したストップモーションアニメーション『プックラポッタと森の時間』。未だ新千歳空港国際アニメーション映画祭でしか上映されていなかった今作だが、2月15日からついに全国配信がスタートする。
『ノーマン・ザ・スノーマン』シリーズ、『眠れない夜の月』(15)、『ごん -GON,THE LITTLE FOX-』(19)など、珠玉のストップモーション作品を世に送り出してきた八代健志が、たった一人で撮りきった今作。その撮影の裏側について、八代監督に話を伺った。
Index
- コロナ禍で生まれた時間を創造に
- ファンタジーであり、ドキュメンタリー
- 花は待ってくれない!森の時間に追われる撮影
- 世界初⁉︎セミの羽化と人形アニメのコラボ
- 必要なのは職人的なバランス感覚
- 10年前から心の中にいたプックラポッタ
- 大藤信郎賞を受けてー〝実験〟の成功と確信
- 研ぎ澄まされる情報の中で、曖昧なものも大事にしたい
コロナ禍で生まれた時間を創造に
Q:この作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
八代:2016年にABC天気予報の背景映像を作ったのですが、それで初めて本格的な屋外ロケコマ撮りに挑戦しました。自然の中に人形を置いて撮影するのは面白いと思ったし、まだまだ伸び代があると、手応えを感じていました。いつかもっと撮りたいと機会を伺っていましたが、作品の企画として提案するには、もっと実験してからでないとノウハウが足りないとも思っていました。
『ごん -GON,THE LITTLE FOX-』(以下『ごん』)が終わって、さあ次は何をやろうと考えている時にコロナの流行が始まり、最初の緊急事態宣言。どうやら会社に行けなくなりそうだという空気になった時に「これはロケコマ撮りを試すチャンスだ」と思い立ちました。取り急ぎ、大急ぎで機材をかき集め、過去に作ったボディや頭を使い回してテスト用の人形を作りました。ステイホーム期間に突入し、まずは自宅の庭で実験や練習のつもりで撮り始めたんです。
『プックラポッタと森の時間』(C)TAIYO KIKAKU Co., Ltd./TECARAT
Q:2020年4月10日に、八代監督が所属するTECARATのSNSアカウントでプックラポッタが庭を駆け抜けるカットがアップされました。ファーストカットを撮った時点では、作品全体の構成はまだなかったのでしょうか。
八代:全くなかったですね。実は人形も、最初の頃と最終的な人形では少し形が違います。服も他作品で使ったものを流用しつつ、少しずつ改良していきました。
最初は1カットずつのトレーニングだったけど、複数のカットでシーンを作れて初めて実験の成果が見えると思っていたので、後々一つの作品に組み上げていこうという気持ちはありました。
Q:ストーリーはいつ頃から出来はじめたのですか。
八代:きっかけは、4月に遅めの雪が降ったことですね。実はこの作品を物語として見せようとする際に、屋外コマ撮り独特の、太陽光や草木の揺れがコマ飛びによってパラパラして(チラついて)見えることが、観客が物語に感情移入する邪魔になるのではないかという懸念がありました。
そんな時に雪が降って、雪解けのタイムラプス映像(※1)を撮ることができた。雪解けのタイムラプスは普通の人も見慣れているから、冒頭に入れれば「この映画は前提としてこれくらいパラパラ動きますよ」っていうのを受け入れてもらえると思ったんです。その時から導入にタイムラプスを利用したストーリーを考えはじめました。
Q:通常はノーマルスピードで撮るであろう人間のパートも、あえてタイムラプスで撮っているのは、人形のパートと合わせた時の違和感をなくすためだったのですね。
八代:人形アニメとタイムラプス映像の接着剤として人間のピクシレーション(※2)を使うというアイデアは、自分の中でも大発見!という感じでした。
(※1)「低速度撮影」「微速度撮影」と呼ばれる撮影方法。数秒(ときには数分)に1コマずつ撮影したものを繋げて再生することで、コマ送り動画のように見える。
(※2)生身の人間をコマ撮りすることでアニメーションを作る技法。