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『シラノ』ジョー・ライト監督 何度も語られた有名な物語を、新たなスタイルで今届ける意味【Director’s Interview Vol.183】
家族を俳優として演出する不思議な感覚
Q:ロクサーヌ役のヘイリーは、あなたの私生活のパートナーでもありますよね。やはり特別な経験になったのでしょうか。
ライト:映画監督というのは憧れの仕事ですが、多くの責任を一人で背負い、孤独を感じるのも現実です。そのような状況で、喜びと辛さを分かち合え、サポートしてくれる人がいるのは、本当に幸せでした。もちろんヘイリーは現場で俳優としてプロフェッショナルです。自宅でも一緒に過ごす人が撮影現場にいると、まるで私が監督を演じ、彼女が俳優を演じているような奇妙な感覚に陥りましたね。
Q:ヘイリーとは自宅でも仕事の話をするのですか?
ライト:(やや照れながら)はい。しょっちゅうです。
Q:ちなみに過去のシラノの映画ということなら、ジェラール・ドパルデューの『シラノ・ド・ベルジュラック』(90)が有名です。
ライト:10代の時に観ました。まるで自分が主人公になったように感じたのを覚えています。ガールフレンドがなかなかできなかった現実を重ねてしまったのでしょう(笑)。
『シラノ』© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
Q:それも含め、シラノの物語が時代を超えて愛される理由は何だと思いますか?
ライト:私たちの多くは、誰かと親密になるうえで“障害”や“恐れ”を感じて生きています。自分の本当の姿を相手に知られるのは怖いものです。それを乗り越えて、他者からの愛を受け入れることで信頼を築くことができる。それをシラノの物語は伝え続けているのではないでしょうか。普遍的な経験を深く掘り下げたところが魅力なのです。
Q:あなたの代表作は小説を映画化したものが多いと感じます。今回の『シラノ』は舞台の映画化ですが、何か特別な経験になりましたか?
ライト:文学作品よりも、舞台の映画化の方が難しいと感じました。媒体として、演劇と映画の距離は近いからです。ざっくり言えば、舞台の作品をそのまま映しても映画になります。要するに、簡単なんですよ。でもそこに甘んじてしまうと何も変わらないので、舞台の静的な部分を映画の動的な表現に変えられるかが試されるわけです。映画の歴史を振り返ると、劇場の呪縛からいかに解放されるかの歴史でもあったと思います。細部の表現という点で、映画は舞台よりも文学に近いのではないか。それが今回の『シラノ』を経験しての私の持論です。
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監督:ジョー・ライト
1972年8月25日、イギリス、ロンドン生まれ。20年以上にわたり、観客に素晴らしい映画鑑賞の思い出を提供する一流の映画監督のひとりであり続けている。テレビの世界でキャリアをスタートさせた彼は、ワーキング・タイトル・フィルムズが製作した長編監督デビュー作『プライドと偏見』(05)で、2度目の英国アカデミー賞を受賞し、新人賞を獲得。この作品は、世界的なヒットとなり、英国アカデミー賞では新人賞以外にも5部門でノミネートされ、アカデミー賞®︎では主演女優賞(キーラ・ナイトレイ)を含む4部門にノミネートされた。その後すぐにワーキング・タイトル・フィルムズとキーラ・ナイトレイと再びチームを結成し、大作『つぐない』(07)で批評家にも映画ファンにも喜びと感動を与え、またしても世界的な成功をおさめた。この作品は、英国アカデミー賞14部門にノミネートされ、作品賞と美術賞(サラ・グリーンウッド、ケイティ・スペンサー)を受賞し、ゴールデン・グローブ賞には7部門にノミネートされ、作品賞(ドラマ)と音楽賞(ダリオ・マリアネッリ)を受賞した。再度ワーキング・タイトル・フィルムズとチームを結成して製作した『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(17)は、彼らの最も有名な作品となり、ゲイリー・オールドマンにアカデミー賞®主演男優賞をもたらした。オールドマンはほかにも全米映画俳優組合賞や英国アカデミー賞でも主演男優賞を獲得した。この作品はそれ以外にもアカデミー賞®︎5部門や英国アカデミー賞8部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアー賞(イヴァナ・プリモラック、カズ・ ヒロ、デイビッド・マリノウスキー、ルーシー・シビック)を獲得した。その他の監督作には『路上のソリスト』(09)、『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』(15)などがある。
取材・文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
『シラノ』
2022年2月25日(金)より全国公開
配給:東宝東和
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