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『ブルーサーマル』橘正紀監督 アニメは「全部描く」もの。だからこそリアリティに執着する【Director’s Interview Vol.189】
日常動作の中に、嘘を混ぜて信じ込ませる
Q:その世界に没入できる説得力、“本物感”への愛着は、冒頭にお話しいただいた橘監督のものづくりの方法論とも一致しますね。
橘:やっぱり、デジタルよりは「そこに本物がある」ことをありがたがっちゃうといいますか、力があると信じているんです。クリストファー・ノーラン監督も、実際に物を置いて撮ることにこだわるじゃないですか。実写へのこだわりは、画面に力をもたらすと思います。
Q:『ダンケルク』(17)では、浜辺のシーンでCGではなく書割(木枠に貼った紙や布に、風景や人を描く大道具)を置くなど、徹底していますもんね。アニメーションだと実写と違って「映り込む」ことがなく、すべて描くからこそ、画面へのこだわりがダイレクトに反映される気がします。
橘:アニメーションは、全部意図的に画面を作ることになるんですよね。そうするといくらでも描けちゃうから、そこにいかにリアリティを忍び込ませるかをやらないといけない。「嘘じゃん」って思われたら物語を信じてもらえなくなっちゃうので、『ブルーサーマル』ではちゃんと「たまきや倉持が“いる”」と感じてもらう必要がありました。そうしないと、登場人物の誰かが傷ついたときに共感してもらえないし、冷めてしまう。アニメーションだからこそ、実写よりもリアリティに気を付けて描いているところはあります。
『ブルーサーマル』© 2022「ブルーサーマル」製作委員会
Q:ゼロから構築するからこそ、リアリティラインの設定が肝要になるわけですね。
橘:そうですね。アニメでファンタジーをやるにしても、日常や自分の身の回りに起こる些細なことはできるだけリアリティがあるように心がけています。未来に行っても電話の使い方は同じとか、日常動作や仕草は現実から離れないようにして、そこに「こういう技術があるからこの人たちの生活はこうなってる」を見せていくとリアリティが出てくるんです。「些細な部分に親近感を持たせてから、大きな嘘を一個ついて信じ込ませる」というのは、アニメではよくやりますね。