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『ブルーサーマル』橘正紀監督 アニメは「全部描く」もの。だからこそリアリティに執着する【Director’s Interview Vol.189】
本物感を生み出す、空の色や雲の形
Q:『ブルーサーマル』だと、やはり重要なのは空の表現かと思います。モノクロの漫画をカラーのアニメーションにするにあたって、どのように空の描写を構築していったのでしょう。
橘:おっしゃる通り、今回は「空の物語」なので、空の季節感はちゃんとやろうと、美術監督の山子泰弘さんと話したうえで「雲の形で季節が表現できるので、きちんとやりたい」と美術さんにお願いしましたね。アニメーターがレイアウトとして鉛筆で描く雲の形って、そのままだときちんとした形にならないものもあるんです。
例えば鉛筆の腹で描くとそれなりの雰囲気は出るんですが、それをアウトライン化するとどうしても形がきちんと出ない。そこは美術さんが写真などを見ながら筆で描いたほうが、リアルな雲ができるんです。レイアウトでアニメーターが描いた絵からブラッシュアップしていかなければならないので、美術さんと打ち合わせしながら「ここは夏のこんな感じです」と作っていきました。
空の色に関しては、本番に入る前に美術ボードというテストの背景を描いてもらって、「もうちょっと暖かい空の色にしたいです」「この空はもっと色を濃くしたい」「高度に合わせて、もっと彩度を低い色に」といったような細部を詰めていきました。あとは、登場人物の衣装が最初から白のツナギというのはわかっていたので、それをどうやって画面映えさせようかと四苦八苦しました。あまりくどい色にすると画面がキツくなってしまうし、キャラクターがふわっとしたデザインなので、柔らかい色を使って画面を作る等々、コントロールしていきました。
『ブルーサーマル』© 2022「ブルーサーマル」製作委員会
衣装でいうと、登場人物の私服の色は原作からの情報がないので、キャラクターの性格に合わせて当ててみたり、一緒にいるシーンが多い人物同士だと色が被らないようにしました。「ここにこのキャラが立つ予定なので、色が上手く散るようにしたいです」など、配色を考えながら組み合わせていきました。
Q:一端をお聞きするだけでも、途方もない作業量になりそうです……。
橘:それだけ色彩は重要なんです。色から感じる印象や感情の変化って映画では大切で、「このシーンではもうちょっと青い色にして、沈んだ感じを背景でも作ってください」とか「ここは気持ちが穏やかになっているシーンなので、温かみを入れてください」といった画面の作り方を美術さんとはやり取りしていました。
Q:そこに、今回だと「飛ぶ」躍動感も入れていくわけですもんね。
橘:グライダーのモーションについては3Dでモデルを作ったり、CGアニメーションをやってくださった方が頑張ってくれました。実際にどうやって飛んでいるのかがわかるフライトレコーダーのデータをいただけたので、それを参照しつつ……。グライダーは実際のスポーツなので、ルールがあるものを素人が触ると、知らないところでミスしてしまう。そこで今回は監修に入ってもらって、メーター類だったり「ここを飛んでいるなら背景にはこれが見える」といったところを細かく決めていただきました。空を飛んでいる際の景色はかなり正確になっていると思います。