© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019
『シング・ア・ソング!〜笑顔を咲かす歌声〜』ピーター・カッタネオ監督 “悲しみ”を映像で見せるのは難しい【Director’s Interview Vol.208】
“悲しみ”を映像で見せるのは難しい
Q:クリスティン・スコット・トーマス演じるケイトは戦争で息子を亡くしていますが、そこがフォーカスされることはありません。しかし物語が進むにつれて、息子が亡くなった悲しみが徐々に浮き彫りとなっていきます。直接的な表現をすることなく核心に迫っていく手法が素晴らしいです。
カッタネオ:“悲しみ”はとても抽象的なものなので、それを映像として見せることは一番難しいと思います。
2009年当時、イギリス軍の将校たちの間では、自分の感情を表に出すべきではないという風潮があったそうです。仲間や家族が亡くなり悲しみを感じても、それについてあまり考えないようにするべきだと…。そういったこともあり、ケイトは息子の死ときちんと向き合えずにいた。ところが合唱団に参加してみると、リサを始めとするほかのメンバーたちは感情を全く隠すことなく、むしろストレートにぶつけてくる。そんなメンバーたちと一緒に歌っていくうちに、ケイトも徐々に自分の心を開くようになっていく。彼女はそこでやっと悲しみと向き合うことが出来るんです。
人間は一つの感情を閉ざすと他の感情も全て閉ざしてしまう。最初ケイトはそんな状態ですが、それが徐々に変わってゆく。それをクリスティンは見事な演技で表現してくれました。まさにそれが、この物語のエモーショナルな部分であり映画の背骨になっていると思います。
『シング・ア・ソング!〜笑顔を咲かす歌声〜』© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019
Q:軍人の妻たちは個性あふれるキャラクターで、彼女たちの物語もそれぞれしっかり描かれる。彼女たち皆の印象がとても強いです。
カッタネオ:大きかったのはキャスティングですね。独特な個性を持っている方を意識的にキャスティングしました。撮影時には視覚的にもキャラクターが立つように、衣装やヘアメイクなどでも工夫しています。
また、脚本家とも相談して、出演者自身が元々持っているキャラクターを役に織り込んでいきました。例えば、サッカー好きのキャラクターが出てきますが、それは演じた俳優自身がサッカー好きだったので、それをそのまま役に取り入れたんです。俳優たちの実人生の中で際立つものを見つけ、それを映画のキャラクターでも表現させる。そうすることで、映画には出てこないそれぞれの人生のバックストーリーまで、感じさせることが出来たのではないかと思います。