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『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

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夫の存在が映画の原動力に



ヤン:彼には出会った当初から「うちの母はこんな体験をしていて、ちょこちょこ撮っているんです」という話はしていました。それで彼もすぐ「4・3」の本を読んで、「お母さんの話はすごく大事な証言ですね」って言ってくれました。すると、出会ってから3か月ぐらいした時にプロポーズされたんです。


Q:かなり早いプロポーズですね。


ヤン:彼は私より一回りも年下だし、私は過去に一度離婚しているので、「気持ちはありがたいけど、ゆっくり考えたらいいんじゃないの」と伝えました。でも彼は「とにかくお母さんに挨拶に行きたい」と。そう言われた時私は「ちょっと待てよ…」と。「日本人との結婚はダメだ」、と言ってきた在日朝鮮人家族の家に、まして金日成と金正日の肖像画がある家に、彼のようなチャレンジャーがノコノコ行くというのは、ちょっとコメディーみたいだなと思って(笑)。


Q:それが荒井さんの登場する場面ですね。意外性があって、とても良いシーンでした。


ヤン:母が、彼にどう反応するか分からない。嫌味を言うかもしれないし、結婚に反対するかもしれない。だから彼に「その挨拶しに行く様子を撮っていい?」って聞いたんです。そうしたら彼も「ええ!?」って感じだったんですけど、最終的にOKしてくれました。私も彼に気を使って「顔は写さないようにする」とか言っていたんですが、「僕の顔が出ないと、つまらないんじゃない?」って彼が言うから、「なかなか腹をくくっとるな」と(笑)。



『スープとイデオロギー』(C)PLACE TO BE, Yang Yonghi 


Q:素晴らしい覚悟ですね。


ヤン:私は彼が母に会う前日に、大阪の実家に先乗りして待っていたんです。すると母がてんこ盛りのニンニクを買って、皮をむいているんです。「明日は朝早くから鶏炊くねん。一緒にお昼ご飯食べたらええやろ?」って母が言うんです。「それは彼のことを大歓迎ちゃうの?昔とえらい違うやん!」って言ったら。「ほんまはな、そんなん(国籍)関係ないねん」って言い出して。私としては「今さら遅いわ!」みたいな感じでした(笑)。


それで翌日、彼が家にやってきて、あの映像が撮れたので、この調子で彼が本当に私たちの新しい家族になれば長編ドキュメンタリーにできるかも、と思い始めました。それで彼に「今後あなたが大阪へ行くたびに撮るし、東京での私たちの生活も撮りたい」と伝えました。そうしたら「やってみよう」と。





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