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『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

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プロデューサーとしての夫



Q:本作では、ヤン監督の夫である荒井カオルさんの存在がとても大きいと思いました。中でも荒井さんの着ているTシャツに「やられたな」、という感があります(笑)。お母さんに会いに行く時に、最初はスーツで登場するんですが、そこからミッキーマウスのTシャツになった時の衝撃がすごいです。


ヤン:よりによってミッキーマウスですからね。著作権でトラブったら大変だと思い、弁護士さんに相談しました。おかげさまで日本最強の弁護士がつきました (笑)。


Q:あのTシャツにそんな法務チェックが必要だったんですね(笑)。荒井さんは今回、出演もしながらプロデューサーとして、製作費の管理もされていたそうですね。


ヤン:東京から済州島や大阪に何度も行っていますし、手描きでアニメーションを作るから、どう考えても資金が足りない。だから編集期間のスタッフのご飯代が出ないとわかった時に、私から彼に「あなたのクレジットカードを使いまくる」と伝えました(笑)。



『スープとイデオロギー』(C)PLACE TO BE, Yang Yonghi 


Q:(笑)つらい宣言ですね。


ヤン:乗りかかった船で「ノー」と言えずに頑張ってくれましたね。今回、編集は韓国でしましたが、その理由のひとつはご飯が安い金額で充実するからなんです。ご飯がおいしくないと元気が出ないのは、もう身に染みていましたから。韓国の食堂なら1人800円から1,000円ぐらいでニンニクも野菜もたっぷり食べられる。


韓国での編集作業は、当初は1年くらいのつもりだったんです。でもコロナ禍の影響もあって、2年に伸びてしまいました。その間に荒井から「まだできないの?」とか「一体いつできるんだ」みたいなことを1回でも言われたら、私達はギクシャクしたと思うんです。でも彼は1回も言いませんでした。しかも荒井は「飯代はケチるな」と言い続けてくれたんです。


彼の肩書には「エグゼクティブ」がついていますが、それは韓国のスタッフが荒井カオルへの感謝の意味で、エグゼクティブをつけましょうって提案してくれたからなんです。韓国のスタッフが「『飯代をケチるな』、なんてプロデューサーは初めて会った」と。


荒井はフリーライターで、取材で出張に行った時などは現地の美味しいものを食べたい。でも出張先で編集者から「牛丼でいいですよね」と言われたら、すごくモチベーションが下がると。海の幸がおいしい地域までわざわざ行ったんだから、「割り勘になりますけど、うまいもん食いましょう」って言ってくれれば、自分は払うのにって。


Q:私もプロデューサーをやるのでそのお話はよく分かります。耳が痛いです(笑)



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監督・脚本・ナレーション:ヤン ヨンヒ

大阪出身のコリアン2世。米国NYニュースクール大学大学院メディア・スタディーズ修士号取得。高校教師、劇団活動、ラジオパーソナリティ等を経て、1995年より国内及びアジア各国を取材し報道番組やTVドキュメンタリーを制作。父親を主人公に自身の家族を描いたドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』(05)は、ベルリン国際映画祭・最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)、サンダンス映画祭・審査員特別賞ほか、各国の映画祭で多数受賞し、日本と韓国で劇場公開。自身の姪の成長を描いた『愛しきソナ』(09)は、ベルリン国際映画祭、Hot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭ほか多くの招待を受け、日本と韓国で劇場公開。脚本・監督した初の劇映画『かぞくのくに』(2012)はベルリン国際映画祭・国際アートシアター連盟賞(CICAE賞)ほか海外映画祭で多数受賞。さらに、ブルーリボン賞作品賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位、読売文学賞戯曲・シナリオ賞等、国内でも多くの賞に輝いた。著書にノンフィクション「兄 かぞくのくに」(12/小学館)。18年発表の小説「朝鮮大学校物語」が文庫化され発売中。



取材・文: 稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。




『スープとイデオロギー』

6/11(土)より[東京]ユーロスペース、ポレポレ東中野、[大阪]シネマート心斎橋、第七藝術劇場 ほか全国の映画館で順次公開!

配給:東風

(C)PLACE TO BE, Yang Yonghi 




映画「スープとイデオロギー」公開に合わせ、『朝鮮大学校物語』が文庫化2022 年 6 月 10 日発売/角川文庫、 800 円+税

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