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『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

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つらい記憶を他者に伝える意味



Q:済州4・3研究所の方が来日して、お母さんに済州四・三事件の聞き取りを行った直後から、認知症が進行してしまうのが印象的でした。


ヤン:研究所の方の中には、自分たちがつらい記憶を聞きすぎたせいで、母の認知症が進んだのではないか、と思った方もいたようです。でもそうではなく、あそこまで聞き出してくれたおかげで、母は解放されたのだと私は思っています。映画ではほんの短いシーンですが、研究所の人たちみんなエキスパートなので、母はあの日だけでも3時間くらいしゃべっていたんです。


Q:だいぶ詳細に事件のことをお話しされていると感じました。


ヤン:やはり質問が良いんです。「オモニが住んでいた家の近所に派出所があったでしょう。あの派出所の警官たちはすごく悪質で有名だったんです」と研究所のスタッフが水を向けると、オモニが「ああ、でも一人だけいい人おってん」とか答えたりして。



『スープとイデオロギー』(C)PLACE TO BE, Yang Yonghi 


Q:記憶の引き出し方が上手いんですね。


ヤン:そうなんです。あと研究所の人が済州島の方言も混ぜて質問すると、母の目も変わるんですよね。済州島の方言で質問されると、「ああ、そんな事ありました、ありました」って話が盛り上がったりして。あの日はインタビューが終わった後、母はすごく気持ち良さそうでした。


Q:表情も普段と違う感じがしました。生き生きとしている。


ヤン: つらい経験をした人に「もう忘れていいよ」って言えるのは、それをしっかり他者に伝えて、伝えてもらった人が受け止めて、また次の人に伝えることができた時ですね。つまり「伝わる」ことと、次の人に「伝えますね」っていう確認ができた時に安心して、つらい記憶から解放されるのかなと思いました。母はそれができたのだと思います。それから1週間後ぐらいして認知症が進行しはじめ、亡くなった父や北朝鮮にいるはずの兄たちを捜すようになりました。





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