1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】
『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】

PAGES


母のスープがイデオロギーを超えた瞬間



Q:荒井さんが家族になったことで、お母さんは済州四・三事件のことについて語りやすくなったのでしょうか?


ヤン:荒井はフリーライターで、インタビュー記事を書くのが仕事なので、話を聞くのがとても上手なんです。それに母が私に語るのはマンネリ化していて、話を適当に省くんです。でも相手が日本人で、ましてや新しい家族になる人だから、すごく丁寧に沢山話すようになりました。「4・3」のことだけではなく、母の子供時代話とか、色々なことを荒井に話すようになりましたね。荒井は荒井で面白い話がどんどん出てくるものだから、取材でもないのに大阪の母の所にしょっちゅう一人で通うようになりしました。荒井は特に母の鶏のスープが気に入って「めっちゃ美味しかったから、練習する」って東京で練習して、映画にも出てくるように母のために作ったりもしたんです。


普通、「母親の味は娘に伝える」って言いますけど、娘はカメラを回すので手伝いもしない。旦那さんの方が一生懸命練習したりして、良い話だなと思って(笑)。私と母のぎくしゃくした関係を彼が見事に埋めてくれたんですよね。



『スープとイデオロギー』(C)PLACE TO BE, Yang Yonghi 


Q:画面からそれが伝わってきました。荒井さんの人柄がお母さんの心を開かせているように感じました。


ヤン: 私は母の手作り料理で育ったのに、イデオロギーが違ったことで母に反発心が強かった。スープよりイデオロギーの方が勝っていた感じでした。荒井も、勿論うちの親とはイデオロギーは違います。でも、スープでスコーン!ってイデオロギーを飛び越えちゃったんですよ。私はそれを見て「お見事!」と。「私はこれができなかったけど、彼と一緒にだったらできるかも」と思えました。


私達は個人では絶対にシステムに勝てないし、イデオロギーの違いのせいで起こる戦争などの衝突や対立の中で、個人は潰されてしまう。でも映画の中では、スープに勝たせたい。だから今回は、荒井がいなかったら映画にできなかったと思います。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督 母の料理が国家とイデオロギーを超克する瞬間を描く【Director’s Interview Vol.213】