『ヤクザと家族 The Family』『余命10年』等で知られる藤井道人監督をはじめ、多様な映像クリエイターが所属する映像制作会社BABEL LABELが2022年1月、サイバーエージェントグループへの参画を発表した。
これに伴い、そうそうたるプロデューサーの面々がBABEL LABELに集結。前田浩子(『リリイ・シュシュのすべて』『2046』『百万円と苦虫女』『宇宙でいちばんあかるい屋根』)、五箇公貴(「サ道」『舟を編む』)、瀬崎秀人(『会社は学校じゃねぇんだよ』『余命10年』)、道上巧矢(『空白』「新聞記者」)といった映画・ドラマ問わず多様な作品に携わってきた4人に、BABEL LABEL参加への経緯や今後の目標について伺った。
4人が考える、日本の映画・ドラマの未来とは? 現状の問題定義も絡めたロングインタビューをお届けする。
左から道上巧矢氏、五箇公貴氏、前田浩子氏、瀬崎秀人氏 各プロフィールはこちら
Index
- あきらめない男・藤井道人監督からのオファーで参加
- 自分たちで企画開発を行い、権利を保有していく
- 国の助成金含め、企画開発に資金が提供されない現状
- A24で撮りたいなら、撮ろう
- Netflixが日本上陸して変わったものとは?
- 日本独自の文化・価値観を掘り下げていく映画づくり
- 上がるクオリティ水準。国内でも生き残っていけない危機感
あきらめない男・藤井道人監督からのオファーで参加
Q:まずは、皆さんがBABEL LABELに参加された経緯を教えて下さい。
前田:藤井道人監督とご一緒した『宇宙でいちばんあかるい屋根』が、2021年の10月に行われた「トロント日本映画祭in日比谷」で上映され、そのトークセッションに藤井さんが登壇されました。そこで久しぶりに会ったんです。そのときに「ちょっと今後のことで相談があるから」と言われまして…。
元々メールで予告はされていたので「今後の藤井さんの作品の話かな」と思っていたら、もちろんその話もあったのですが、サイバーエージェントグループ参画の話をされて、BABEL LABELに参加してくれないかと。私は本当にポカンとしてしまって「来年再来年生きてるかわからないよ」と言ったら「何を言ってるんですか」と言われました(笑)。
「『宇宙でいちばんあかるい屋根』のときは(前田)浩子さんが一人で出資に走り回っていたけど、僕も手伝って一緒に背負いたいとずっと思っていたんだ」と藤井さんが言ってくれて、ほろっときてしまって。ただ、私は自分のプロダクションもあるのでそこを止めることはできないと伝えたら「それをやっているあなただから来てほしい。そこのプロジェクトもリスペクトするし、もしかしたらBABEL LABELをやることで支えあうこともできるんじゃないか」と。それでいったん預からせていただいたんですが、こうと決めたらあきらめない男・藤井道人ですから(笑)。
ただ、私自身も、以前に岩井俊二監督がアメリカに行くときに一緒に行こうと思ったものの、自分の親が病気だったことなどがあってついていけなかった後悔がありましたし、岩井さんに続く才能を育てたいという想いもあって。藤井さんの前向きな言葉や、BABEL LABELにはこれからのディレクターがたくさんいることを考えたときに、岩井さんやこれまでのことも思い出して、「やらない後悔よりやる後悔」ではないですが、トライアル含めてやってみようかと。それで、いまに至ります。
五箇:僕は2020年にテレビ東京を退社したのですが、藤井さんとは2016~17年にテレビ東京×Netflixのドラマ「100万円の女たち」でご一緒させていただいて、すごくいい関係性が出来上がったんです。その当時から藤井さんは連続ドラマをマルチカメラで撮っていたんですが、僕が知っている限りそういった撮り方をするのは大根仁さんくらいだった。画数が多いから、編集も細かいし。キャスティングも細部まで徹底的にこだわるタイプで、すごく才能を感じたんです。
そこからはたまに飲みに行くくらいだったのですが、去年の年末くらいに連絡が来て「おや?」と思って(笑)。それで年明けに藤井さんと会って、サイバーエージェントグループ参画の話を聞きました。資金力も得たし、制作会社としてBABEL LABELが受けた仕事だけでなく、自分たちで企画してIP(知的財産権)を保有できるスタジオを目指す、という高い志を感じました。それは大きかったですね。
ただ、僕も自分の会社をやっているので安請け合いはできない。でも、前田さんのおっしゃる通り「あきらめない男・藤井道人」ですから(笑)。「とりあえず社長の山田久人さんに会ってほしい」と言われて、実際に会って色々とお話をお聞きしました。BABEL LABELには魅力的な監督がそろっていますし、僕のテレ東時代の後輩のプロデューサーたちと組んでいるプロジェクトも多い。そういうこともあって、親近感を感じていましたし、これからの映像業界を引っ張っていく方々をサポートすることで、映像業界に恩返しが出来るのではないかと思ってお受けしました。
BABEL LABELはすごく今っぽい感覚がありますよね。例えば会社掛け持ちの件も、そこを理解してもらえると、僕らも「じゃあここの会社のために自分ができることは何だろう」という気持ちになります。
瀬崎:僕は、『会社は学校じゃねぇんだよ』で藤井さんとご一緒しました。このドラマは、若者が起業して成長していく物語だから同世代の監督とやりたいなと思っていたときに、ちょうど「100万円の女たち」を観たんです。それで藤井さんに連絡を取らせていただいたら「やりましょう!」と言ってくれて。
『会社は学校じゃねぇんだよ』の後は、僕も藤井さんとはたまに飲むくらいの関係だったんですが、あるとき「『余命10年』という映画をやるんだけど一緒にやってくれないか」と声をかけてくれて、その作品で1年くらいずっと一緒にいたんです。そんなこんなで前から「BABEL LABELに来なよ」とは誘っていただいていました。その後、自分自身の5年10年後のキャリアを考えたときに「BABEL LABELに入ったら自分にとってもすごくプラスになる」と感じ、そのときには前田さん・五箇さんの名前も挙がっていて、先輩たちと一緒に仕事したいという気持ちもありました。
道上:僕は皆さんと違ってまだフリーランスでの作品契約があるのでBABEL LABELに入るのは2023年からなのですが、藤井さんとはNetflixの「新聞記者」が最初です。この作品が終わったときに藤井さんから「どこかに所属する気持ちはないのか」とお誘いいただきました。その際に藤井さんが話していたのが、「日本のスタジオドラゴン*を目指す」ということ(*スタジオドラゴンは韓国のドラマ制作会社。「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」「愛の不時着」「Sweet Home -俺と世界の絶望-」等で知られる)。
それまでは自分の中で会社に入る気持ちはあまりなかったのですが、この年になって誰かと一緒に夢に向かっていくのはすごく面白いし、BABEL LABELだったり藤井さんだったらもしかしたらそれができるんじゃないかと感じました。