YouTubeはまだちゃんと語れない
Q:もともとユーチューバーのカルチャーには注目していたんでしょうか?
吉田:いや、全然ですよ。最初は純粋に「見返りを求める男と恩を仇で返す女」の話をやりたかったんです。それだと女優と監督とか、ミュージシャンとプロデューサーとか、組み合わせはいろいろあるじゃないですか。でもどれもどこかで見たことある気がして、プロデューサーとも何かしっくりこないねって話していたんです。
ある時ふと、ユーチューバー同士なら、直接会わなくてもネット上でディスり合えるし、第三者までその諍いを見られるし、いいんじゃないかなと思いついたんですけど、ちょうど同じタイミングでプロデューサーから「監督は嫌かも知れないけどユーチューバーってどうかな?」って言われたんです。たまたま売れないユーチューバーのドキュメンタリーを見たらしくて、同じ日に2人が同じことを言い出したのでもう「これしかない!」ってなりました。
もちろんYouTubeは見てはいましたけど、そこから本格的にユーチューバーの世界を勉強した感じです。だからこの映画を観て、俺が映画界のYouTube通みたいに思われるのは勘弁して欲しいです。やっぱり、ちゃんと語れるようになるには、本当に自分がやらなきゃダメですよ。『BLUE/ブルー』だと自分が30年ボクシングをやってて「俺より語れるヤツいる?」くらいの気持ちはあったけど、もし今回ユーチューバー界隈から叩かれるとしたら、「そうなんですか、知りませんでした!」って平謝りするスタンスです(笑)。
『神は見返りを求める』©2022「神は見返りを求める」製作委員会
Q:ユーチューバー界隈の反応は意識していましたか?
吉田:それは感じてましたね。俺は俺でリスペクトはあるんですよ。だって、最初に映画が出てきた時には、売れない舞台役者が出るものだとバカにされるような時代があったわけじゃないですか。映画は気づいたら偉いものになっていて、今度はテレビが出てきた時に、テレビ役者を格下に扱うみたいな時代もあったわけです。今、新しいコンテンツとしてYouTubeはあるわけで、新しい文化を歓迎する気持ちはあります。
そういう自分の気持ちを託そうとしたのがサイン会のシーンですね。「後世に残るものだけが偉いのか?」みたいなセリフがあるんですけど、それが俺のユーチューバーに対する答えになっているというか。確かに映画は後に残るけど、ユーチューバーだと配信した瞬間に何十万人も見てくれて、参加型でいっぱいコメントが来て、それはそれで素晴らしいって思ってるんです。伝わるかどうかはわからないけど、少なくともそういうことを作品に入れてはいますね。
Q:同時に、古い世代のユーチューバーに対する保守的な見方みたいなものは田母神というキャラが象徴しているわけですよね。
吉田:そうですね。俺の中にも「どっかで馬鹿にしてるんだろ、お前!」って言われそうな気持ちはどこかにあるわけで、100%「YouTube最高!」って描くのも嘘くさいじゃないですか。そこは両面出さないと嘘になるなと。