映芸ワーストワン「獲ったよ!」
Q:『空白』の物語には、共同脚本でコンビを組んでいた仁志原了さんが2016年に急死されたことが背景にあって、『空白』を作ったことでひとつの区切りがついたと仰っていました。ただ、同じことを目指しているようで愛憎がぶつかり合ってしまう2人というモチーフは、仁志原さんとの関係がベースにある『ばしゃ馬さんとビッグマウス』とも通じていませんか?
吉田:そうですね。ずっとそれに囚われてるのかも知れないですよね。自分の青春期と呼んでいいのかわからないけど、男ふたりの話を男女に変えてリライトすることで、仁志原さんと俺との関係性をずっと描いてる気はします。『空白』はその総括みたいな話だったんだけど、また戻ってきちゃいましたね(笑)。
Q:だからこそわれわれオールドファンにとっては、今回もたまらない映画なんだと思います。そういえば『空白』が映画芸術の2021年のワースト一位に入りましたよね。
吉田:そうそう! 俺、すっげえ嬉しかったんです。『空白』では結構賞をいただいたんだけど、自分から吹聴するような気持ちにはならなくて。でも映芸ワーストワンは「獲ったよ!」って言いたくてしょうがなくて、周りにも「スゴイ!」って言ってもらえました(笑)。
『空白』予告
Q:ご自身で『空白』はキネマ旬報で7位くらいになるんじゃないかと予想されていましたが、実際、本当にそうなりましたよね。
吉田:だからヨコハマ映画祭という早いタイミングで賞をいただいたことで、映画芸術の人たちが勘違いしちゃったかなって思ってるんです。映画芸術の荒井晴彦編集長が、誰かに『ドライブ・マイ・カー』(21)はいろいろと賞を撮ると思いますよって言われて、「そうなのか、観てないけどウチではワーストワンだな」って言ってたらしいんですけど、結果的に『ドライブ・マイ・カー』がワースト3位で、ターゲットがこっちになっちゃった。映画芸術にしてみたら「キネ旬7位なんて中途半端なものをワースト一位にしてしまった、外した!」ってなってるんじゃないかな(笑)。こっちはターゲットにしてもらえて「やった!」って喜んでるんだけど。
Q:一方で、映画芸術では『BLUE/ブルー』がベストの3位に入ってましたね。
吉田:そこはやっぱり、映画芸術ってほかのベスト10には入らないだろうなってものばかりを入れてくるからじゃないですかね。俺は正直『空白』はワースト3位くらいだと思ってたんです。でも1位を撮ったから、まるでキネ旬の1位みたいな感覚で「やった!『ドライブ・マイ・カー』に勝ったぞ!」って(笑)。
Q:ついに世間的な評価が追いついてきて、なおかつ映画芸術のベストもワーストにも入り、封印したかと思われた得意技も今回ガンガン出してきて、今ってキャリアの中でも無双状態じゃないですか?
吉田:でも、自分でいうのもなんだけど、去年のポジションは野球で言ったらヤクルトの四番くらいだと思ってたんだよね。大谷翔平みたいな『ドライブ・マイ・カー』がいて、ライバルとかじゃなくて、ただファンとして観ちゃってた感覚はありました。去年の俺の一押しは『ドライブ・マイ・カー』だし、2位が『由宇子の天秤』(20)だったんで。