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『神は見返りを求める』吉田恵輔監督 人間のいい部分と悪い部分両方描かないと気持ちが悪い【Director’s Interview Vol.217】

『神は見返りを求める』吉田恵輔監督 人間のいい部分と悪い部分両方描かないと気持ちが悪い【Director’s Interview Vol.217】

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岸井ゆきのとムロツヨシ



Q:『BLUE/ブルー』が仕上がった時には「傑作できちゃったよ」なんて豪語されてましたよね。今回の完成した感触はどうでした?


吉田:自分としてはすごく良かったんだけど、一方で誰が喜ぶのかまったく顔が浮かばなくて、「これって誰得映画?」みたいな(笑)。とにかく(主演の岸井)ゆきのが観たときに喜んでもらえることがひとつの目標としてあったので、初号試写の日はすごく怖かったんです。遠くから眺めていたほうが安全なんだけど、試写では男らしくドンって横に座ったんです。でも喜んでくれてたんで、ああ、良かったなって。ゆきのも「これ誰が喜ぶかわかんないけど、私が楽しいからいい」って言ったんで、同じ考えの人間が2人いるならいいやって思いました。「2人いるなら他にもいるんじゃない?」って。


Q:岸井ゆきのさんとは『銀の匙 Silver Spoon』(14)以来ですが、『銀の匙 Silver Spoon』でも脇役の中で目立つ存在でしたよね。


吉田:そうですね。いわゆる脇役としてオーディションに来て、一発でこの子がいいって思ったんです。「彼女がこのくらいの役で使えるのは今しかない、これから絶対売れるから」って言ってましたね。当時から、芝居の作り方からして違うんですよ。ほかの人が似たような設定でやるとセリフっぽく感じるのに、その場で本当に緊張してる人に見えたりだとか、自然にやってるようで、妙に説得力があるんです。で、編集の時に何回も見てると「ああ、この動きね」みたいに気づくことが結構ある。かなり細かく分析して本人にも伝えたんだけど、本人はあんまり自覚してないっていうか、気づいてないんですよ。

 

『神は見返りを求める』©2022「神は見返りを求める」製作委員会


Q:じゃあ今回のゆり役は当て書きだったんでしょうか?


吉田:それに近いっちゃ近いですよね。ゆきのだから許されることがあって。それはムロさんもそうなんだけど、この2人ならここまでやってもそこまで嫌悪感を与えないみたいな計算はありましたね。


ただ一番最初は、ゆきののことも考えずに、本物のユーチューバーをゼロから作ろうかなって思ってたんです。誰か無名の人を連れてきて、2年くらいユーチューバーをやらせて、その活動が本編の一部としてリンクすると面白いと思ったんだけど、実際にやるとなると大変すぎる。2年間誰かが付くとして、「言い出しっぺの俺がやるの?」って考えたときに、それはしんどいぞって思ったんです。


あとやっぱり、2年間企画につきあってくれて、しかもこれからバズりそうな新人ってなかなかいないというか、そんな人はもう売れてますよね。だから、最初はそういう企画で走り出したんだけど、途中から主演は女優でもいいかもねって俺から言い出したんです。だって、斬新なアイデアだとおカネ出したくなるじゃないですか。でもみんなそのうちに忘れてくれますからね(笑)。


Q:ムロツヨシさんとは『ヒメアノ~ル』(16)でも組んでいますが、『ヒメアノ~ル』も今回も、おちゃらけた演技を求めるような使い方はしてませんよね。


吉田:そうですね。でも最初に書いてた時のイメージは『Shall we ダンス?』(96)の役所広司さんだったんです。ああいう紳士っぽい人が覆面を被って「ぶっ殺してやる!」って言ったら面白いって思ったの。でも書いてるうちにどんどん悪ノリが出てきて、ヘンな着ぐるみ着せたりとかコメディ要素がどんどん増えた。役所さんのジェントルなイメージからはズレてきたから、ムロさんがいいかなって。


あと、この映画の主人公2人の関係性って自分の実体験がベースにあったりするので、ムロさんが演じた田母神には俺の代弁者みたいなところがある。実際にはもっと若い頃の体験なんですけど、同世代のムロさんがいいと思ったのはそういうところもあるかも知れないですね。





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