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『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督 まずは自分が面白いと思うものを【Director’s Interview Vol.219】
俳優たちに渡した供述調書
Q:供述調書や捜査始末書という形で、キャラクターの設定資料を俳優に渡したとのことですが、俳優たちの反応はいかがでしたか。
是枝:渡したもの自体に関して直接的な質問は無かったですね。ただ、カン・ドンウォンはそれを読んで児童養護施設に取材に行ったり、そこの卒業生に会いに行ったりしていました。ソン・ガンホやぺ・ドゥナも、(供述調書や始末書が)あってとても助かったと言ってくれたので、受け止めてはくれていたと思いますね。
Q:設定資料を供述調書という形にした意図は?
是枝:もし彼らが逮捕されて供述調書を取られたら何を話すだろうかと。彼らの生い立ちを遡り、あの教会にどうやって辿り着いたのか、どういう犯罪歴があるのか、サンヒョンとドンスはどうやって出会ったのか等々、映画の表側に出て来ない部分を結構細かく書きました。スジンに関しては、なぜ刑事になったのか、旦那さんとの関係やラストで彼女が下した判断の理由など、そういうことを含めて書いています。
『ベイビー・ブローカー』© 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
Q:ソン・ガンホさん演じるサンヒョンは、飄々としていて本心が出てこないのでかなりミステリアスでした。その設定資料は本人しか読んでないということですよね。
是枝:それぞれ本人にしか渡してないので、別の人のものは読んでないと思います。
Q:つまり劇中の関係性と持っている情報量は同じだと。
是枝:そうですね。例えばサンヒョンとドンスがどうやって出会ったかはお互いに知っていますが、出会う前にサンヒョンが何をしていたのかはドンスは知らない。ただし、サンヒョンがクリーニング屋で地元のおばあちゃんとしている世間話や、母親と一緒にウォルミドに行った話などからは、元々は母親がクリーニング屋をやっていたことが想像されます。また他にも、近所の若いヤクザに説教をたれたりするところなど、そういった断片を合わせていくと、誰がどういう風にあの町で生きて来たのかが、少しずつ分かるように情報を散りばめたつもりです。
Q:今回のような方法でキャラクター設定を伝えることは、普段からよく行われているのでしょうか。
是枝:これまでも時々はやっていましたが、今回はかなり意識的に細かくやりました。それは認識がズレないようにするため。いつもの日本での撮影だと、言わなくても分かるからと甘えるところがあるんです。それが今回は無い。だから自分がどう捉えているのか全部伝えた方が良いなと。それで結構長いものを書いたんです。
Q:是枝監督が思い描いたキャラクターと、現場で俳優たちが演じたものにズレはなかったですか。
是枝:なかったですね。事前に本読みをやって、その段階で微調整を済ませていることもありますが、個々のシーンで自分の考えたものと俳優が持ってきたものが違ったときには、どっちが面白いか話し合って決めました。直すところもありましたが大きなズレはなかったですね。