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『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督 まずは自分が面白いと思うものを【Director’s Interview Vol.219】
ソン・ガンホは全てのテイクを憶えている
Q:ソン・ガンホさんは、テイクのたびに違う演技をして、更にそのテイクを全て憶えていたというエピソードには驚きました。
是枝:いや、本当にびっくりする。ソン・ガンホのお芝居を見ていると「カット」をかけた瞬間に周りから笑いが起きることが何度もあって、現場では笑って楽しんでいるうちに時間が過ぎていくのですが、いざ編集に入ってワンテイク目から見直していくと、いろんなものを全部変えているのが分かるんです。芝居を少しずつ変えていて全テイクが新鮮なんですよ。まるでテイクを重ねることで自分の芝居が固まっていくことに抵抗しているというか…、都度リセットして初めてのように対応している。
施設の男の子・ヘジンと海辺でやりとりするシーンがありますが、それもどのテイクも全部違う。あるテイクでは、ヘジンが持ってたサッカーボールをソン・ガンホが取り上げて海に投げたりするんです(笑)。そうやっていろんなことをしてるのですが、どれも面白い。面白いけど二度と同じことはしないんです。
Q:その場合はヘジン役の子もその場で起こったことに対応していくのでしょうか。
是枝:そうです。全部ソン・ガンホに引きずられてリアクションするんです。だからその辺はゲームみたいになっていましたね。
Q:子役の演出方法は日本でやっていたときと同じですか?
是枝:今回も変わらないですね。台本を渡さずに現場で通訳を介して口立てしながらやっていました。
『ベイビー・ブローカー』© 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
Q:お話を伺っていると今回はテイク選びに悩みそうですが、テイクは現場でのOKテイクを使うことが多かったのでしょうか、それとも編集で変わるものですか?
是枝:今回は現場のOKテイクをそのまま使っていることが多いと思います。それは現場で皆の意見を聞きながらジャッジをしたものを、覆すだけの情報量が自分にあまりないから。もちろん編集で別の切り取り方をしてテイクを変えてみることもありますけどね。
今回はつないだものをソン・ガンホも確認していて、編集した翌日に各シーン全部チェックするんです。僕より早く編集室に入って前日編集したものを見て、「とても良かった。でも僕の芝居は今使っているテイクじゃなくて7テイク目の方が良いような気がする。最終的なジャッジは監督に任せるけれど、もう一度比べてみてくれないか」と、これを本当に全シーンやるんです(笑)。気になったら徹底的にやるという、そのプロ意識はすごかったですね。
Q:そこまで言われると、監督もセレクトに悩みそうですね。
是枝:もちろんそうやって意見をもらいますが、違うテイクの方が良かったときは、ちゃんと言います。ただ韓国語が分からない監督には、編集して部分的に切り取ったときのテイクの微妙な判断ってなかなか難いだろうという、ソン・ガンホなりのサポートだったと思うんです。とはいえ、撮影時のテイクを全て憶えているとのはさすがにすごいなと。