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『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督 まずは自分が面白いと思うものを【Director’s Interview Vol.219】
まずは自分が面白いと思うものを
Q:ぺ・ドゥナさんが刑事役を演じるとは意外でした。久しぶりのお仕事かと思いますが、いかがでしたか。
是枝:確かに久し振りなのですが、彼女が来日した時は一緒に食事をしたり、釜山国際映画祭で会ったりと、これまでも意外とちょくちょく会って親しくしていました。もちろん彼女の作品も観てきたので、自分に一番近いところで演じてくれている感じもありました。
今回は非常に難しい役だったので、最初にお願いしたときに「すごく難しい役だけど頼む!」と言って頼んでいるんです。彼女の演技は素晴らしかったと思いますね。
Q:その難しい役に対して、本人が現場で悩むようなことはなかったのでしょうか。
是枝:演技に関していうと、「これしかない」というものを彼女はポンと出して来るんです。だから僕は「うわ、すごいな」って感嘆しているだけでしたね。
脚本の段階でも彼女とはやりとりがあって、韓国語に翻訳された脚本は、最初はセリフが固い刑事言葉みたいになっていたらしいんです。本人がそれを読んだときに「監督がこういう言葉で書くかな?」と不審に思ったらしく「日本語の台本も欲しい」と言われて日本語版も渡しました。すると、いわゆる「行間」の部分や「…」の部分が翻訳されてないことが判明した。それでそこから4~5時間かけて、「……」には何が含まれているのだとか、セリフのニュアンスについて通訳を介して全部やりとりしたんです。こちらが説明したことに対して「そのニュアンスなら、この言葉の方がいい」と本人がアレンジして直してくれた。彼女のセリフに関してはそうやって全部修正したので、本人もすごく納得して現場に入れたと思います。それはやっぱり大きかったですね。
『ベイビー・ブローカー』© 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
Q:全編にわたって「水」が印象的ですが、スジン刑事が携帯の電話越しに音楽を聴かせる際に降っている「雨」が特に印象的でした。
是枝:そうですね…。これは結果的にそうなったのですが、この話は雨で始まり、噴水で終わる話だなと。雨が降る音や噴水の音がしたり、ソヨンが土砂降りの夢の話をしたり、洗車で皆濡れて一気に車内の空気が変わったりする。それであの刑事がこの物語の中で何か生まれ変わるときにも、そこに雨を介在させたいなと、そう思ったんです。
Q:最後の質問です。映画という大衆芸術(エンターテインメント)に社会問題を含めて提起することは、無関心層に訴えるのには非常に有効な手段ではないかと思うのですが、その辺りのご意見があれば教えてください。
是枝:訴えようとはあまり思ってないですね。一人の社会人として今の時代を生きることにより、そこから生まれる問題意識や疑問、怒りなど、そういうものを柱にしながら映画を作っています。そうすれば必然的に作品が社会性を帯びてくる。それはあくまで結果であって目的ではない。そこを間違うと、映画が何だか豊かなものから遠ざかっていく気がしてしまう。
社会性がなくて良いと言うのではなく、監督が問題意識を持って生きているかどうかは絶対映画に出る。それはどんなジャンルでもそう。心がけるのはそこですね。まずは自分が面白いと思うものを作ることだと思います。
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撮影:斉藤美春
監督・脚本・編集:是枝裕和
1962年6月6日、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。2014年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げる。主なTV作品に、「しかし・・・」(91/CX/ギャラクシー賞優秀作品賞)、「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91/CX/ATP賞優秀賞)などがある。1995年、『幻の光』で監督デビューし、ヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。2004年の『誰も知らない』では、主演を務めた柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。その他、『ワンダフルライフ』(98)、『花よりもなほ』(06)、『歩いても 歩いても』(08)、『空気人形』(09)、『奇跡』(11)などを手掛ける。2013年、『そして父になる』で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を始め、国内外で多数の賞を受賞。『海街diary』(15)は第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、日本アカデミー賞最優秀作品賞他4冠に輝く。『海よりもまだ深く』(16)が映画祭「ある視点」部門正式出品。『三度目の殺人』(17)は第74回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品、日本アカデミー賞最優秀作品賞他6冠に輝いた。2018年、『万引き家族』が、第71回カンヌ国際映画祭で栄えある最高賞のパルムドールを受賞し、第91回アカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされ、第44回セザール賞外国映画賞を獲得。第42回日本アカデミー賞では最優秀賞を最多8部門受賞する。2019年には、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークらを迎えた初の国際共同製作作品『真実』は日本人監督として初めてヴェネチア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品に選定された。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『ベイビー・ブローカー』
6月24日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ギャガ
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