Ⓒ2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』ブレント・ウィルソン監督 多くの苦しみと悲しみを抱え、それでもなお生き続ける天才アーティストの姿を見て欲しい【Director’s Interview Vol.231】
大物アーティストが語るブライアン、その光と影
Q:ブライアンへのリスぺクトを語るアーティストは多彩ですね。エルトン・ジョンやブルース・スプリングスティーンのような大物アーティストもいますが、彼らは出演をすんなりOKしてくれたのですか?
ウィルソン:ノーと言った人はひとりもいなかったよ(笑)。アプローチした人はすべて、喜んでブライアンについて語ってくれた。人選については、もちろんブライアンのファンであることを公言しているミュージシャンに出演を打診した。
Q:その人選も、じつに多彩ですね
ウィルソン:たくさんの人々ではなく、多様な人々に発言をして欲しかったんだ。ブルース・スプリングスティーンはアメリカのアイコンだし、エルトン・ジョンはインターナショナルなポップアイコンだ。一方で、ニック・ジョナスはずっと下の世代のポップ界のヒーローだ。グスターヴォ・ドゥダメルのようなオペラ界の作曲家も、ハードなロックを奏でるバンド、フー・ファイターズのドラマー、テイラー・ホーキンスも喜んで語ってくれた。彼らそれぞれの音楽活動は一見するとバラバラだ。しかし、ブライアン・ウィルソンという共通項があるんだ。さまざまな世代、さまざまなジャンルのアーティストがブライアンの音楽を愛している。これは素晴らしいことだ。
『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』Ⓒ2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
Q:コメントを寄せたひとりであるテイラー・ホーキンスは2022年3月に50歳で世を去りました。この映画の中で、彼はブライアンの弟デニスの溺死について語っています。“アーティストには繊細な人間が多い”とは彼の弁ですが、薬物によって世を去ったとも言われているテイラーと重ね合わせると、彼の発言も悲しいものに思えてきます。
ウィルソン:テイラーは誰よりも的確な言葉を、あの場面で語ってくれたと私は思っている。あの世へと旅立つアーティストの繊細さの言及だ。今あの場面を改めて見ると、テイラーは自分自身のことを語っていたように思えるね。彼はビーチ・ボーイズのメンバーの中で、とりわけデニス・ウィルソンのファンであり、彼に共感していた。デニスもテイラーも若くして亡くなったことは悲劇としか言いようがない。最後にテイラーと話したのは去年の12月だ。彼は“この映画に出たことを誇りに思う”と言ってくれた。“編集でカットされると思っていたのに、驚いたよ。俺をカットしてもいいから、スプリングスティーンやエルトンの話を入れればよかったのに”ともね(笑)。いや、私の一番好きな言葉をあなたが語ってくれたんだ”と、応えたよ。あのときのやりとりを今振り返ると、心が乱れてしまう。ともかく、デニスとテイラーの共鳴について、この映画を見て感じてくれる人がいたならば、私も嬉しい。