つねに自らの経験をもとに映画を作り続けているミア・ハンセン=ラヴの作品に共通しているのは、誠実さと真実の感情だ。虚飾や取り繕いはそこにはない。新作『それでも私は生きていく』はまさにその代表と言える。病に倒れた父の看病を続けたことと、恋人に出会い救われた経験を元に、悲しみと喜びの相反する感覚が融合しながら生きることを謳歌する。驚くほど率直で純粋な作品であり、ヒロイン役のレア・セドゥのまっさらな魅力と相まって、胸を打つ。ハンセン=ラヴ監督に、本作に込めた思いを語ってもらった。
Index
実体験とフィクションが融合する
Q:あなたの作品はつねに私的な体験をもとにしています。今回も闘病されていたお父さまの看病という、あなた自身の経験がベースになっているそうですが、フィクションとして映画化する上で、あなたにとってなにか原則にしていることはありますか。
ミア:わたしにとって実体験をフィクションにするプロセスはいつも謎なんです。『ベルイマン島にて』(21)では、そのプロセスのミステリーについて扱ったつもりです。おっしゃる通り、わたしは最初の映画からいつも、自分の思い出や自分が知っている人、実際に起こったことなどを題材に脚本を書いてきました。でも同時に、それらは現実の変形でもあります。真実を描きたいので、ものごとの本質的なことを捉えようとするのですが、現実に起こったことを取り上げながら、そこにフィクションを付け足す。ふたつのことを融合させる方法は、わたしにとってとても自然な成り行きなので、ふたつを切り離すことは難しい。たとえば『ベルイマン島にて』を今日思い返すと、自分が本当に生きたことと、映画のために創造したことの区別がつかない(笑)。なんというか、思い出が遠のいて、それが再創造したものに取って代わられるような。それは自分でも戸惑うほどです。
『それでも私は生きていく』
Q:人間の記憶というものは時間とともに変容するので、フィクションである、という人もいますね。
ミア:たしかに、まるで自分にとってはふたつ目の記憶のようなものです。わたしはもの覚えが悪い方なので、いつも大切な思い出を忘れていくような強迫観念があります。1作目から、いわば日記のように思い出をもとに物語を作り、それによって思い出が永遠に形として残るようにしたいという欲求がありました。それが実体験通りではないというだけで。自分で考えても目眩がするようなことです(笑)。