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『怪物』是枝裕和監督 現場での悩みが少ない、完成度の高い脚本でした【Director’s Interview Vol.319】

『怪物』是枝裕和監督 現場での悩みが少ない、完成度の高い脚本でした【Director’s Interview Vol.319】

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田中裕子、坂本龍一、憧れの人との仕事



Q:田中裕子さんが演じる校長は、抑制されたキャラクターながらも田中さん本人の存在感が隠しきれず圧巻です。初めてのお仕事でしたが現場での様子はいかがでしたか。


是枝:すごくシリアスなシーンの直後に皆で笑いあったりと、現場は和気あいあいと進んでいきましたが、僕はひとり緊張していました(笑)。裕子さんを撮るというのは、やはり覚悟がいる。樹木希林さんとはまた別の意味で試されている感じはありました。


校長室のシーンを撮っていた時ですが、それまでは保護者の話を「はい…はい…」と聞いていた田中裕子さん演じる校長が、教頭たち他の先生が入ってきた途端に、メモを取っていたボールペンをカチャッと押して「はい、お終いです」という感じで席を立つんです。あれを見た瞬間はゾッとしました。「あ、この人はなに一つ聞いていないんだ。熱心に聞いているフリをしていただけなんだな」と。それがあのボールペンの音と動作一つで全部わかって「これは見逃してはいけない」と思ったんです。そこからはもう現場で集中力を切らさないようにするのが大変でした。



『怪物』©2023「怪物」製作委員会


Q:坂本龍一さんとも長年の念願がかなってのコラボレーションでしたが、坂本さんの音楽のどんなところに惹かれたのでしょうか。


是枝:映像がイメージ出来るというのが僕にとってはいちばん大きいのかなと。坂本さんの曲を聴いていると画や色が浮かぶんです。夜の諏訪湖の真っ黒な湖を見たときに、そこに真っ赤な消防車が走る、「あ、ピアノだな」「あ、坂本さんだ!」と思っちゃったんです。


坂本さんにお願いする前の仮編集の画には何曲か坂本さんの既成曲を勝手に当てさせてもらっていて。例えば「hibari」は、二つのメロディが絡みながら追いかけっこするような、ちょっと不思議な感じの曲でしたからこれは子供二人の道行きに使えるなと。それは(本編でも)そのまま残りました。


Ryuichi Sakamoto「hibari」


坂本さんからは体力的なこともあって「全部は無理ですよ」と言われていました。でも一度観ていただいたら、とても面白いと言ってくれて「1、2曲浮かんだ曲があるから形にしてみます」とお返事をいただけたんです。もう「歓喜!」っていう感じでしたね。


昨年末に発売された「12」というアルバムからも「使っていいよ」と言ってくださり、そこからも選ばせていただきました。子供たちがマンホールに耳をあてて、そこから秘密基地に向かう途中で「12」からの曲を入れたのですが、「画を見て作ってくれたのかな」と思うぐらいピッタリで、すごく驚きました。仮編集であてていた曲も含めて、いろんな時期の坂本さんの曲を使わせていただいたおかげで、作品の奥行きが広く深くなったと思います。




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監督:是枝裕和

1962年6月6日、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。2014年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げる。1995年に『幻の光』で監督デビューし、その後も『誰も知らない』(04)、『そして父になる』(13)、『海街 diary』(15)等、数々の作品を世に送り出す。2018年の『万引き家族』は、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞し、第91回アカデミー賞®外国語映画賞にノミネート、そのほか多くの映画賞を受賞した。2019年の『真実』は国際共同製作作品として海外の映画人とのセッションを本格化させ、2022年には初の韓国映画となる『ベイビー・ブローカー』で、第75回カンヌ国際映画祭のコンぺティション部門に正式出品、エキュメニカル審査員賞を受賞。また主演のソン・ガンホが韓国人俳優初となる最優秀男優賞を受賞した。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成





『怪物』

6月2日(金)全国公開

配給:東宝 ギャガ

©2023「怪物」製作委員会

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