サプライズよりもスケアリーを
Q:音楽や声が聞こえてくる「嫌な感じ」と、さなが突然出てくるような「驚かされる演出」に交互に襲われ緊張感が緩みません。そういった全体的な構成は脚本段階で作られるのでしょうか。
清水:脚本は設計図にすぎなくて、現場では想定より不気味な感じにならないことはよくあります。僕はサプライズよりもスケアリーの方が好きなんです。じわじわ緊張が続く妙な不気味さの方が、なんとなく上品な気もしますしね。「そろそろ来るぞ、来るぞ、ほら来たー」のサプライズばかりだと観客も慣れてきちゃう。でも何故かどのプロデューサーからも、わかりやすいお化け屋敷的なびっくりを求められるんです(笑)。でもそれは驚きであって怖さじゃない。派手で刺激的な驚きはわかり易いし、大切ですが、正直どんな監督でも撮れちゃう気がしています。淀んだ雰囲気やヤバい緊張感の空気を撮れるか?がホラーを作る際の監督の力量で、個性と腕が伺える感性な気がしていて。なるべくジトジトしていて「あれ?おかしい、やばいやばい!」っていう空気を、僕は作りたいんですけどね。
Q:その辺は編集でも意識されていますか。
清水:そうですね。編集で数フレーム違うだけで「おお、怖いじゃん!」ってなったりします。音に関しても効果音で印象が変わったりするので、脚本段階では思いつかなかったところも、編集では見えやすくなってきますね。むやみやたらに、大きな音の衝撃的なSEを当てたがるプロデューサーも多いのですが、前後の緊張感やバランスが大事なんです。
『ミンナのウタ』©2023「ミンナのウタ」製作委員会
Q:オープニングクレジットやマキタスポーツさんの探偵など、映画『セブン』(95)の影響を感じました。他にも『シャイニング』(80)の影響も見受けられましたが、意識されたところはありますか。
清水:ありますね。ホテルの廊下ってだけで、知ってる人には『シャイニング』が浮かぶでしょうし、僕も大好きな作品なので、廊下の子供は『シャイニング』を意識していましたし、あのシーンは『ザ・ショック』(77)へのオマージュなんです。色んなものを紡ぎ合わせたところはありますね。オープニングも『セブン』の影響が出ているかもしれませんし、ノイズっぽい音もそうかもしれませんね。
マキタスポーツさんの格好は昭和のおじさん探偵感を狙っています。マキタさんと衣装合わせするときに、「この野郎、なんか格好つけて意識してんな」っていう風にしたいとお願いしました(笑)。マキタさんも「なるほど!だったらこういうのはどう?」っと、帽子を被ったりして、一緒にキャラを作っていきましたね。
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監督:清水崇
ブースタープロジェクト所属。1972年生まれ、群馬県出身。大学で演劇を学び、助監督を経て98年に監督デビュー。原案/脚本/監督のオリジナル企画「呪怨」シリーズ(99~06)はVシネ、劇場版を経てハリウッドリメイク。日本人監督初の全米No.1(興行成績)に。近作に『犬鳴村』(20)、『樹海村』(21)、『牛首村』(22)の《恐怖の村シリーズ》3部作。ホラー以外にも『魔女の宅急便』(14)、『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』(17)、『ホムンクルス』(21)など。プラネタリウムの科学映画『9次元からきた男』(16)が日本科学未来館にて上映中。本作は、6月16日公開の『忌怪島/きかいじま』に続く今年公開の2作目となる。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『ミンナのウタ』
8月11日(金)全国ロードショー
配給:松竹
©2023「ミンナのウタ」製作委員会