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『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督 あえて“時代らしさ”を再現しない【Director’s Interview Vol.360】

『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督 あえて“時代らしさ”を再現しない【Director’s Interview Vol.360】

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違う時世を一晩で描く



Q:同じ人間の違う年代を一晩で描き出すというアイデアが、とてもうまくハマっていました。


冨永:題材としては青春時代の回顧録なので、普通にやったら青春映画になるんです。ただ、エピソードも多いし年月も経過するので、一冊そのままやろうとすると連続ドラマくらいの尺になる。実際、脚本の高橋知由くんとプロットを作っていた当初は、連ドラの企画としてテレビ局に持って行ったりもしました。でも、そもそも連続ドラマはやったことがないし、あまり慣れないことはやめようと(笑)。それで1時間半〜2時間くらいの普通の長編映画として企画を切り替えました。


映画の構成として年代記のような見せ方もありますが、それはもう『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18)でやったので今回はいいかなと。年月を語っていくことで“変身”を見せるのは、『素敵な〜』のときは末井昭さんの話だからふさわしかった気がするんです。南さんの場合は、ずっとピアノの前で仕事をしている人なので、ある瞬間とある瞬間(3年前のある日と3年後のある日)だけでいいんじゃないかと。それで、一晩の話に3年前の自分と3年後の自分が出てきて両方が影響し合うといった構成にしました。



『白鍵と黒鍵の間に』Ⓒ2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会


実はこのアイデア自体、南さんの本の中にあるんです。箱バンのピアニストになろうと思ったら、前任者が辞めない限りそのポジションにつけない。箱バンの誰かが辞めたから南さんがその店で働けるようになり、そして次に自分が辞める時には後任を連れていったと。つまり南さんは後任者と前任者という二人の経験をしているわけです。言い換えれば時世の違う同一人物。今回の映画は池松くんの一人二役と言われていますが、本当はそうじゃないんです。このややこしい説明を聞いていただくと、そうじゃないということがわかっていただけるのですが(笑)。


また、3年前の名前が博で3年後の名前を南としていますが、最初は同じ南という名前で、シーンごとに3年前と3年後を繰り返す回想形式だったんです。だけど全てのシーンが夜なので、3年前も3年後も同じ日に見える。それだったらもう同じ晩にしてしまえと。これ、ややこしいんです。説明しててもこんがらがってくるんですけど(笑)。


Q:違う時世を一晩に凝縮するのは、かなり大胆ですよね。


冨永:“無理やり1日にした映画”を探しましたが、パッとタイトルが出てこない。もっと勉強しないとダメですね。「これ!」という参考になる映画が見つからないまま脚本を書き、恐る恐る俳優やスタッフに読んでもらったのですが、「これわかる?おかしくない?」って聞くと、皆「全然おかしくない」って言ってくる。逆にちょっと心配になって、ちゃんと読んでないんじゃないかなと(笑)。絶対おかしいところがあるはずなんだけど…。


Q:『素敵なダイナマイトスキャンダル』の冒頭でもワンカットで時代を推移させていますよね。個人的にはあれも好きです。


冨永:そういうことをしたがるんです(笑)。ある意味わかりやすいかなと。大体いつも破綻するのですが、今そう言って頂けてちょっと安心しました。今回は、3年前と3年後の同じ顔の池松くんがウロウロしてるのに、周りの人たちが皆すっとぼけているというか、「何で皆気づかないんだろう?」って観客に思われないかなと。そこも心配でした。「子供騙しみたいなことして」って言われるんじゃないかと。




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