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『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督 あえて“時代らしさ”を再現しない【Director’s Interview Vol.360】

『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督 あえて“時代らしさ”を再現しない【Director’s Interview Vol.360】

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“時代らしさ”を再現しない



Q:本作は一晩の狂想曲の趣がありコメディ要素も強いですが、その方向性はいつ決められたのでしょうか?


冨永:最初の脚本からそうしてましたね。連ドラという方向を諦めた時から、年代物をやらない代わりに何か極端なことをしようと。最初は『ブルーバレンタイン』(10)みたいな感じや、フェリーニの映画を意識したりもしましたが、「いや、そういうことでもなく、もっとバカな感じでいいんじゃないか」と。同じ顔の二人ウロウロしていている中、千香子は二人とも知ってるはずなのに他人として認識している。そういうバカなことが起こっている感じにして、なんか開き直りたかったんです。


また、“時代らしさを再現しない”という開き直りも自分の中では大事なことになっていました。『素敵なダイナマイトスキャンダル』の時には、装飾や衣装など時代考証を踏まえてスタッフに用意してもらったのですが、“時代物は時代考証をちゃんとやらないといけない”と当たり前になっていることが、ちょっと面倒くさくなったんです。別にそれをやりたいわけじゃないなと。だから初めは、場所もよく分からないようにしたくて、白黒にしようと思ったんです。そうしたら出資者から「客が減るからからやめてくれ」と。絶対そんなわけないんですけどね。いや、そんなわけないと思っていること自体が間違いかもしれませんが(笑)。


あと、銀座でロケは出来ないということが早めにわかったので、じゃあ銀座にもこだわらないようにしようと。少しだけ銀座でロケはしましたが、銀座というところでは映画を撮るもんじゃないなと。撮ってても全然面白くなかったですね(笑)。



『白鍵と黒鍵の間に』Ⓒ2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会


Q:杉山ひこひこさん演じる店長が、やたらと“打ち上げ”のことを触れ回っているのが個人的にツボでした。


冨永:あれは実際のエピソードで、南さんが演奏していた店の店長が「普段は厳しくしている私ですが、それはお店のためなんです」と、お店の忘年会の挨拶で泣き始めたらしいんです。それで「今日は無礼講なので、皆でお店のお酒を飲んで、美味しいものを食べてください」と。そういう素敵な一幕が本当にあったらしく、そういうときだけは南さんやハウスバンドの人たちも、ホステスのお姉さんたちの歌の伴奏をして楽しかったらしいんですね。そうやって、すごく印象的な登場人物として店長が出てくるんです。ほかにもいろんな店の店長が原作には出てくるのですが、杉山くんがやった店長はそういう人たちをくっつけて作りました。あと、忘年会のことを皆に言って回るのは、観客に対して「年末だということを忘れないでくださいね」という役目もあったんです。




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