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『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督 あえて“時代らしさ”を再現しない【Director’s Interview Vol.360】

『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督 あえて“時代らしさ”を再現しない【Director’s Interview Vol.360】

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前作『素敵なダイナマイトスキャンダル』で、伝説の雑誌編集者・末井昭の波乱万丈の半生を映画化した冨永昌敬監督。そんな冨永が今回描くのは、ジャズミュージシャン南博の青春の日々。原作では南が過ごした時間が数年間にわたって描かれるが、冨永は原作を大胆にアレンジ。何と一夜の出来事として描き出す。同じ年代記でも全く違うアプローチで挑んだ冨永監督は、いかにして『白鍵と黒鍵の間に』を作り上げたのか? 話を伺った。



『白鍵と黒鍵の間に』あらすじ

昭和63年の年の瀬。夜の街・銀座では、ジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)が場末のキャバレーでピアノを弾いていた。博はふらりと現れた謎の男(森田剛)にリクエストされて、“あの曲”こと「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏するが、その曲が大きな災いを招くとは知る由もなかった。“あの曲”をリクエストしていいのは銀座界隈を牛耳る熊野会長(松尾貴史)だけ、演奏を許されているのも会長お気に入りの敏腕ピアニスト、南(池松壮亮、二役)だけだった。夢を追う博と夢を見失った南。二人の運命はもつれ合い、先輩ピアニストの千香子(仲里依紗)、銀座のクラブバンドを仕切るバンマス・三木(高橋和也)、アメリカ人のジャズ・シンガー、リサ(クリスタル・ケイ)、サックス奏者のK助(松丸契)らを巻き込みながら、予測不可能な“一夜”を迎えることに・・・。


Index


当時の南さんを撮影していた



Q:南博さんの原作「白鍵と黒鍵の間に」との出会いを教えてください。


冨永:2008年頃、本が出て割とすぐ読みました。当時の僕は、イーストワークスエンタテインメントというジャズ専門のレコード会社からライブ撮影の仕事を受けていて、会場に行くと南さんのトリオがよく出演されていました。南さんはそのレコード会社からCDも出していて、菊地成孔さんたちも所属されていたんです。そういった界隈から「南さんの本、面白いよ」と教えてもらい、早速読んでみたわけです。


その本には、南さんがジャズミュージシャンとして活動を始めたばかりの若い頃が描かれていて、南さんは銀座のクラブで箱バンの仕事をしながら自分のライブもやっていた。若手ジャズピアニストの表面と裏面みたいなところが克明に描かれていました。クラブの箱バンを何店も掛け持ちし、その仕事と自分のトリオでの演奏活動も掛け持ちし、とにかく暮らしが慌ただしい。いろんな生活を掛け持ちしている人という印象がありました。そんな中、自分がどんどん変わっていったことが回想されていく。例えば、いつの間にか自分が親に対して乱暴な口を訊いていることに気づいたりして、それでちょっとショックを受けたりしているわけです。


僕は映画を作るときは、原作がある場合でも、自分が一からキャラクターを作っていくときでも、変身する人が大好き。特に急にコロッと変わる人が好きなんです。何なら人間は変身することが前提の生き物だと思っているくらい。その変身には理由がある人も無い人もいますが、当時の南さんの場合は「これは変身して当然だろ」みたいな状況にあった。もうこれは簡単に映画になるんじゃないかと。「誰か映画化すればいいのに」と話していると、そのうち菊地成孔さんの紹介で南さんと直接話すようになり、「じゃあ僕、(映画化に向けて)預かっていいですか?」と。それが2010年頃の話です。



『白鍵と黒鍵の間に』Ⓒ2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会


Q:冨永監督がジャズのライブ撮影をされていたのは意外でした。


冨永:いろんな場所に行ってましたね。表参道のスパイラルの地下にCAYというライブレストランがありますが、そこが多かったかな。CAYとかクアトロ、もうなくなっちゃったけど六本木のスイートベイジルっていう大箱、日比谷の野音も行きましたね。オーチャードホールみたいなデカいところもあれば、ピットインみたいなジャスライブハウスもあった。


あと、歌舞伎町のコマ劇場の隣にクラブハイツという、いかにも昭和のグランドキャバレーみたいなところがあって、そこで成孔さんの「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」ってラテンジャズバンドが演奏していました。その初代ピアニストが南さんだったんです。だからそういうグランドキャバレーで南さんがピアノを弾いていたのを普通に仕事で見ていたわけです。面白かったのは、そんな店なのにグランドピアノじゃなくてエレピ(エレクトリックピアノ)だったこと。そういう経験もあったので、映画化するなら僕しかいないんじゃないかなと(笑)。




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