どうやって観客に感情移入させるか
Q:驚くようなビジュアルやギミックをこれまで生み出してきた川村さんですが、今回は“物語”をしっかり描いていくことになります。本作のストーリーはどのように作られているのでしょうか。
川村:これまでは音楽の力を借りたりしながらビジュアルインパクトで突破する短編作品が多かったのですが、長編となると作り方を変える必要がある。「木彫りのコマ撮り、アニメ風アクション」という点でビジュアル面はある程度新規性が担保されていると感じましたが、いざ海外へ売り込みを始めると「脚本はどうなっているのか」という話になる。 キャラクターや世界観、感情表現や人間ドラマが長編ではより重要となりますし、その裏にあるテーマまで問われます。
最初はこの物語をどう作ればいいか分からず非常に苦戦しました。経験もなかったので、最初は何人かの脚本家の方々にお願いしてみました。しかし『HIDARI』のビジュアル世界が特殊すぎて、実写やアニメの脳で考えられてしまい、「木彫りのコマ撮りの質感を活かす」という前提がどうしても抜け落ちてしまう。発案者の僕でさえ想像が難しいので無理もありません。結果的にブーメランのように「自分で書くしかない」となりました。そこからは試行錯誤の連続で、どれだけ観客の感情を動かせるか、どれだけ主人公に共感し彼の苦難に付き合ってもらえるか、問題が解決した時に一緒に喜べるか、などなど、そのあたりを勉強しながら書きまくりました。色々な人に見せては書き直す作業を続け、ようやく90分のシナリオにたどり着いた状況です。
幸い、現在のシナリオは色々な方に面白いと評価していただき、実際その脚本でハリウッドメジャースタジオから全額出資の提案に至りました。最終的にはスタジオ側の事情で白紙になりがっかりもしましたが、逆にサインしていたらプロジェクトが塩漬けになっていた可能性が高いので、「サインする前でよかったね」と一同苦笑いしながら気持ちを切り替えました。現在は資金調達をやり直しており、半分は日本で、残り半分は海外の配給会社で集めようと動いています。このタイミングでカンヌ映画祭へピッチに行けることになったのもその流れですね。ハリウッドのメジャースタジオをはじめ経験豊富なフィルムメイカーからも評価いただけるクオリティの脚本になっているので、グローバルでヒットする作品として完成できたらいいなとワクワク・ドキドキしています。
Q:勉強しながら脚本を書かれたということですが、映画を観て研究された部分もありましたか。
川村:勉強というよりも、元々映画が大好きで、年間200本ぐらい観ている人間なんです。しかもSFとかB級アクションが大好き。『ゾンビコップ』(88)や『スター・ファイター』(84)『プレデター』(87)やチャック・ノリスの『デルタ・フォース』(86)なんかをアメリカで観て育ちました。かなり偏ってます(笑)あ、もちろん大人になってからはヨルゴス・ランティモスとかロイ・アンダーソンみたいなアートハウス系の作品も大好きでたくさん観ています。
でも今回はどちらかというとオールターゲットに向けた、海外アニメでいうところのアダルト・アニメーションのマーケットを意識しました。『ロボコップ』(87)や『プレデター』のようにアクションドリブンで、子供から大人まで、純粋なエンターテインメントとして楽しめるような作品にしたいと考えたんです。そうしたアクションの裏に、人とテクノロジーの関係性や自分探しといった、人間ドラマやテーマ性がある構造を目指しました。よく例えに出すのですが、『修羅雪姫』(73)や『ジョン・ウィック』(14)や『キル・ビル』(03)に近い世界観です。
コマ撮りで今回のような渋いルックだと「アートフィルム系の作品なんですか?」とよく聞かれます。もちろん画作りとしてはそういうビジュアルで圧倒するような世界を目指していますが、物語的には「子供が観てもワクワクできるようなアクション・エンターテインメント」を目指していると説明しています。そのため、プロットは結構シンプルな物語になっています。
そもそもなぜ「左甚五郎」という名前なのか、皆さん気になるところだと思いますが、名前の由来には諸説あるんです。嫉妬に駆られたライバルに右腕を切り落とされて左腕しか残っていなかったからとか、「右に出る者なし」という称号から「左」という名前がついたとか。また、江戸城の改築工事の際に陰謀に巻き込まれて腕を失ったという説もあり、僕はこの最後の説が非常に面白いと思ったので、そこを起点に物語を作りました。
左甚五郎とは別に、陰謀に巻き込まれる棟梁が出てくるのですが、その人は歴史上実在した「甲良宗広」という人物をモデルにしています。今回の物語では、その棟梁が亡くなり、娘の許嫁も死に、主人公自身も利き腕である右腕を失って復讐の旅に出る。というお話。『ジョン・ウィック』が犬を殺され車を盗まれたから復讐を始める、といった構成に近いですね。それくらいシンプルな動機の方がグローバルでも分かりやすい。そのシンプルな軸の中に色々な人間ドラマを織り交ぜて脚本を書いていきました。

『HIDARI』©︎dwarf/Whatever Co./TECARAT
Q:その初めての脚本作りはいかがでしたか。面白かったのか、苦しかったのか。
川村:両方ですね。この年齢になって、ここまで初めてのことに挑戦する経験もそうないと思いながら書いていました。脚本術の本などもあまり読みませんでした。読んでも「三幕構成」などの意味がよく分からなくて(苦笑)。代わりに、過去の名作映画の類型を思い出しながら構造を考えていきました。僕自身、最近長尺の映画を見るのが苦手になってきていることもあり、『映画大好きポンポさん』じゃないですが、映画はやはり90分だろうと。コマ撮りアニメは情報量が濃いので、尺が長すぎると観客が疲れてしまう懸念もある。そこで『GHOST IN THE SHELL』(95)や『ロボコップ』など、大体90分尺の構成になっている作品をお手本にしました。
また、執筆しながら気づいたのですが、僕は大昔プログラミングをやっていたので、プログラミング的な思考で脚本を書くのが向いているなと。物語があってキャラクターが語り出すというよりも、キャラクターや出来事を人工的に配置し、それぞれを走らせて後から回収するような作り方。ワイヤーフレームのような大枠から書き、徐々に解像度を上げていく書き方をしていました。その辺は完全に我流なので、果たして正しいのかどうか分からずにやっていましたが、自分としてはかなりしっくりくる書き方だったように思います。30秒のものを作ることと3分のものを作ること、そして30分以上の長編を作ることでは作り方が全く変わってくる。ビジュアル・インパクトだけでは絶対に持ちません。どうやって観客に感情移入させるかを中心に考え抜いたので、そこが上手く映像化できればと思っています。
Q:今お伺いしたエピソードだけでも、映画を通した主人公の旅路、いわゆる「ヒーローズ・ジャーニー」の構造が自然とできているように感じます。川村さんが見てきた映画の蓄積が血肉になっているのですね。
川村:左甚五郎は非常に想像を膨らませやすい謎めいた人物でした。ゼロから全く新しい世界を作り、観客に愛してもらうのは相当難しいこと。先ほど松本さんも指摘した通り、何かしらの史実に依拠している方が共感しやすく想像しやすい。それでいて少しミステリーの余白が残っている人物となると…、自然と時代劇というジャンルに導かれた気がします。
完全に自由なオリジナルの企画案も松本さんに見せていたのですが、「なぜ世界中の人に刺さるのか?」「なぜ面白そうだと思わせられるのか?」というフックがどうしても足りない。いつもその結論に帰結していました。