数多くの作品と逸話が残る、実在不明の伝説的彫刻職人「左甚五郎」。そんな甚五郎の物語を、彼の作品と同じ木彫人形を使って描くストップモーション時代劇、それが『HIDARI』だ。2023年にYouTubeで公開されたパイロットフィルムは490万回以上再生され、SNSや各国のメディアで爆発的な話題となった。またパイロットフィルムとしては異例となる世界20以上の映画祭での受賞など、世界中で大きな注目を浴びている。
『HIDARI』パイロットフィルム
しかしこれはあくまでパイロットフィルム。長編映画制作への通過点に過ぎない。本作の監督・川村真司氏とプロデューサーの松本紀子氏は、世界市場で戦える作品を目指すべく、ハリウッドのメジャースタジオなどを相手にピッチ(プレゼンテーション)を繰り返す日々を送っている。そんな中、本作が今年のカンヌ国際映画祭「マルシェ・ドゥ・フィルム」にて開催される「Annecy Animation Showcase」に選出されることとなった。現地時間の5月17日には、川村監督と松本プロデューサーが共にカンヌのステージに登壇し、パイロットフィルムを上映するとともに、『HIDARI』長編映画化に向けた現在地と展望をプレゼンテーションする。
これまでの日本映画・コマ撮りアニメの枠組みを超え、あくまでも世界に照準を合わせた制作を目指す本作。川村監督と松本プロデューサーが挑む先には一体何があるのか。パイロットフィルムの企画・制作から、長編映画制作への展望まで、多岐にわたる2人の話を1万5千字越えのロングインビューでお届けする。
Index
- 新たなものを生み出したい
- マテリアルに意味がある物語
- どうやって観客に感情移入させるか
- 世界照準へ、英語で書いた脚本
- 物理法則に縛られないコマ撮りアクションの醍醐味
- 見たことのないものを目指すチーム
- 世界への挑戦、やらない理由はない
新たなものを生み出したい
Q:お二人は以前から知り合いだったのですか。
川村:そうですね、出会いは何だったかな…。
松本:最初は「オチビサン」(15 web)ですね。
川村:そうだ。「日本アニメ(ーター)見本市」という庵野秀明さんがやられていた企画で、安野モヨコさんの「オチビサン」をアニメ化してほしいと依頼されたんです。四季の話でもあったので、普通にアニメ化するより四季のオブジェクトを使ってコマ撮りでやれないかなと。それで「コマ撮りといえばドワーフスタジオさんだ!」と松本さんにお声がけして、そこで初めてご一緒しました。すごくいいものができたので「またぜひお願いします」と伝えたら、逆に「どーもくん」(98〜 NHK)の企画を手伝ってほしいと言われまして(笑)。
松本:すごく大変で複雑な企画が必要で、これはもう、対応できるのは世界中探しても川村さんしかいないと! かなり無茶振りかなと思ったのですが、ちょうど日本に帰国されていたので、速攻で会いに行ってご相談しました。
川村:当時はまだニューヨーク在住だったので、企画自体はリモートでやりましたね。「DOMO! WORLD」という、16分割されたHD画面が全部繋がって8K映像になるという企画で、200匹くらいのどーもくんがうじゃうじゃ出てくる(笑)。その企画をさせてもらってから、お仕事のキャッチボールが始まりました。NHKの朝ドラ「スカーレット」(19)のオープニングのお仕事を松本さんから紹介されたのですが、これも最終的にコマ撮りでやることになったので、今度はブーメラン的にドワーフさんにお願いすることになったりして。
松本:大変な仕事を振ったら、逆に戻ってきちゃった(笑)。
川村:これまでも仲間としてずっとやってきましたが、まさか一緒に映画作りに乗り出すとは思いませんでした。ドワーフさんは「リラックマとカオルさん」(19 Netflix)や「ポケモンコンシェルジュ」(23 Netflix)など、すでに世界配信されるコンテンツを作っていましたが、次は自分たちのオリジナルIPを作ろうとしていた。
でもここからが松本さんの凄いところなのですが、普通はそれを社内でやるようなものですが、「社内だと従来通りのコマ撮りになっちゃいそうだから、川村さんなら変なモノを考えてくれるんじゃないか」と(笑)。それで松本さんが声を掛けてくれたんです。
松本:そこまで煽ってないですけどね(笑)。

『HIDARI』©︎dwarf/Whatever Co./TECARAT
川村:過去にミュージックビデオやショートフィルムは作ってきましたが、キャラクターや物語を作った経験はありませんでした。僕で良いのかなと思いつつも、映画を作れるチャンスなんてそうそう無いし、しかもコマ撮りなんて。この機会を逃してはなるまいと思い、そこから“企画100本ノック”が始まりました。
松本:極端に言えばコマ撮りでなくてもよかったのですが、とにかく何か新しいものを作りたいと思っていました。願わくば、得意なコマ撮りがいいですが、新しくて想像できないことをやるのであれば、やっぱり川村さんだなと。それでしばらく壁打ちの壁になって企画出し続けてもらい、その中に『HIDARI』があったんです。
川村:企画は1年くらいやっていましたね。定期的に会って「また10案考えてきました」と提案しては「うーん、微妙だね」と言われながら(笑)、オリジナル以外のものも含めてかなり考えました。
松本:川村さんの企画はどれも良かったのですが、コマ撮りで長編を作ることは非常に難しい。どうせ難しいのであれば、「これだ!」と思える企画が出るまでキャッチボールをし続けた方が良いと思っていました。