見たことのないものを目指すチーム
Q:今のお話はプロデューサーとしての醍醐味ですね。大変なスタッフィングから最高の化学反応を生み出すという。
松本:本当に楽しいですね。川村さんが求めている映像に対して、プロデューサーとして最適な環境と人材を用意して渡せるか。そして、集まったスタッフ陣がいつもより高いパフォーマンスを発揮して素晴らしいアウトプットを出してくれるか。その瞬間を見るのが、プロデューサー冥利に尽きます。
川村:稲積さんもそうですし、人形造形の八代さんも、美術の能勢さんも、他のスタッフも皆、最高の仕事をしてくれました。ただし、本編の制作においては、もう少し精緻なアニマティクスを作らなければならないと考えています。長編となると厳格な予算やスケジュールの制限内に収めなければならない。Unreal EngineやUnityを活用してプレビズを作成し、カメラワークや尺の検証を行った上で、パイロット版の時と同じようにスタッフにオリエンテーションを行い、「ここから先はお任せします」というスタイルで進めることになると思います。
松本:パイロット版はある意味で壮大な実験であり、プロジェクト全体に向けたR&Dのような側面がありました。制作陣も、川村さんがどういうアプローチで演出をするのか読み切れていませんでしたし、全員が手探りの初めての挑戦でしたが、決められた指示をこなすスタッフではなく、誰も見たことのないものを目指すチームだったことは良かったですね。

『HIDARI』松本紀子プロデューサー
人形造形の八代さんには以前質問したことがあって、「八代さんはアニメーターも監督も人形造形もできますが、1つしか選べないとしたらどれを選びますか?」と聞いたんです。すると八代さんは「人形造形です」と答えた。その記憶があったので、今回の企画が立ち上がった時に、「八代さん、人形造形だけに専念できる仕事が来ましたよ!」とお声がけしました。アニメーションの動きや演出プランは考えなくていいので、とにかく木彫りの人形として最高に美しいものを作ることだけに集中してくださいと。
川村:深い知見を持った八代さんが造形に専念してくれたからこそ、木彫りにフォーカスしつつもあの変わった造形ができたのだと思います。今回の「木という材質を前面に出す」というコンセプトを踏まえて、八代さんは「以前から木の質感を見せたいと思っていたんですよ!」と楽しんでくれました。普段のご自身の監督作品であれば、あんな特殊な構造にはしないと思うんです。関節のジョイント部分もあえて隠さずに、「ここのジョイントも最高にセクシーに仕上げておきました」なんて言ってましたから。仕上がった人形は本当に美しくて素晴らしかったですね。動かしづらいんですけど(笑)
松本:人形を受け取ったアニメーターの稲積さんとオカダシゲルさんは、「動かしづらそう!」「大きい!」と文句を言う前に、まず「うわ! かっこいい!!」と目を輝かせていました。彼らも根っからのクリエイターなんです。だからこそプロデューサーとして「最高にかっこいい人形を用意したので、あとはよろしくお願いします!」と(笑)。これはとても幸せなことですね。