世界への挑戦、やらない理由はない
Q:資金集めの話もぜひ聞かせてください。松本さんから川村さんに最初に相談された時は、資金の当てはあったのでしょうか。
松本:すみません。全く無かったですね…。
川村:お金はないけど同じ夢を見ようよと(笑)。
松本:普通なら会社に怒られますよね。だからひっそりと始めたんです。企画を考えるのも「お互い時間がある時にやりましょう」という感じで進めていました。でも『HIDARI』の企画を見た時に、これは企画書だけでは絶対に動かないと思ったんです。逆に言えば、パイロット版があればものすごい力を持つかもしれないと感じました。そこでWhateverさん、太陽企画さん、ドワーフにも頭を下げて資金を出していただき、パイロット版を作ることにしました。
川村:クラウドファンディングも2度やらせていただきました。MOTION GALLERYとKickstarterを利用して、まずは国内で、最後にグローバルで展開しました。それはパイロットフィルムの制作費の補填というよりも、映画化に向けての活動費やコミュニティ作りが主な目的でした。
松本:クラウドファンディングで集まった金額は、プロモーションやYouTubeでの展開など、皆さんに知っていただくための活動に使わせてもらいました。ただ「作って終わり」にしないで済んだのは、クラウドファンディングの資金があったおかげです。
パイロット版が完成した瞬間から営業は始めていて、色々なスタジオを回ったり、パートナーとなる仲間を探したりしてきました。出資者を募ることは決して簡単ではありませんが、私たちが全てのIPを持っているので、自由に動ける強みがあり、ある意味で無茶な動き方もできます。リミッターをかける必要はないので、「これをやったらまずいかな」とは考えず、色々なところに飛び込んで進めている状況です。
Q:出資を募る映画会社は基本的に海外なのでしょうか。日本国内の映画会社にはあたらないスタンスなのでしょうか。
松本:国内にあたらないわけではないのですが、国内市場だけでは回収できない規模の予算になっていることが理由の一つとしてあります。コマ撮りで且つオリジナル作品となると、国内ではどうしても弱い。配給会社がついたとしても、あまり大きな期待を持ってもらえず、期待されずに展開しても大きな結果は出ません。私はしっかりと結果を出したいと思っています。コマ撮りという打席が少ないジャンルだからこそ、きちんとヒットを打たなければならない。そう考えると、国内だけではパートナー、仲間が足りないんです。海外できちんと作って評価され、日本に戻ってきてようやく日本でも評価される。現在考えている製作費は日本円で20億くらいになるので、最初から海外を視野に入れる必要があるのです。

『HIDARI』©︎dwarf/Whatever Co./TECARAT
Q:今回、カンヌ国際映画祭マルシェ・ドゥ・フィルムにて開催される「Cannes Animation」アヌシー・アニメーションショーケースへ選出されましたが、どういった経緯で声が掛かったのでしょうか。
松本:声が掛かったというより、映画祭への営業活動の結果でもあると思います。昨年もドワーフは松本大洋さん原作の『Sunny』で参加させていただきました。海外へ営業する場合、やはり映画祭でのアピールは非常に大事です。私たちは『HIDARI』以前からそこに力を入れてきましたし、『HIDARI』は絶対に映画祭に強い作品だと思って動いていました。その中でも、もっとも大きなマーケットのアヌシー国際アニメーション映画祭に関係した「MIFAピッチ」、「Cannes Animation」、そして「Work in Progress」という3つのピッチ機会があり、今年はそのどれかに『HIDARI』で参加したいと応募したところ、カンヌから声をかけてもらえた形です。こちらからも積極的にアプローチした結果ですね。
Q:現地にいる出資者に対しての手応えや期待感はどうでしょうか。
松本:カンヌに出品されるプロジェクトは比較的知られているものもあり、「現地で初めて見て驚かれる」というわけでもないことも多い。特に『HIDARI』は既にパイロットを見てくださっている方も多いと思います。ただ、「カンヌに選ばれた」というお墨付きを得られることは、継続的に人と会っていく中では非常に大きいですね。手応えというよりは、強い武器が手に入る感覚です。昨年行って存在を知ってもらい、今年は次のステップへ進む。ただし、カンヌで「いいね」と言われたからと言って、即サインということは絶対にありません。
Q:たとえば20億円をリクープ(投資回収)するためには、40〜50億円の興行収入を上げる必要があり、日本国内の市場だけでは特大ヒットが必須となってくる。それで最初から海外市場に向けてプロデュースしようという戦略は理解できます。しかし全くのゼロベースから、そこまでの大きな賭けに出るのには相当な覚悟が必要だったのではないでしょうか。
松本:たしかに日本国内だけで考えると途方もない数字に思えるかもしれませんが、海外市場で20億円規模、約13-15ミリオン(ドル)という製作費は、向こうの感覚からすれば規模的には大きな作品ではありません。グローバル市場においてそれ以上の興行収入を稼ぎ出している作品は無数に存在しますし、コマ撮り作品でも成功例はあります。世界基準で考えると、この目標設定は決して越えられない高いハードルだとは感じません。「市場規模が大きい場所に打って出ればいいじゃないか」とシンプルに考えています。私たちがそこへ行って堂々と戦えばいいだけのことなんです。
ただ、日本発のオリジナル・アニメーション作品として世界市場に挑戦する以上、「ただ作って海外で公開して満足です」で終わらせては絶対にダメだと思っています。ビジネスとしても作品評価としても「絶対に勝ちたい」と強く思っています。そのためには丁寧にプロセスを進めなければなりませんし、信頼できるパートナーの存在も不可欠。長い道のりの中で上手くいかないこともたくさんありますし、夢破れる瞬間や、厳しい評価を受けてボコボコにされることもあります。それでも、「挑戦せずに後悔するよりは、はるかにマシ」。成功する可能性があるなら、挑戦を受けて立ち、目の前の壁を一つずつ越えていけばいいだけ。何だか根性論みたいな回答になってしまいましたが(笑)。
川村:松本さんが言うように、やらない理由はないんです。世界中がオンラインで繋がっている今、日本にいながらリモートで世界にピッチすることだって可能なわけですから。リスクがあったときにそれをテイクするか、避けちゃうかというだけの問題。もしかしたら、日本は日本の市場だけで回っているので、別にそこから出なくていいという空気があるのかもしれません。出ていく摩擦の方が大きいから、そのリスクを取れないだけの気もします。
別に失うものは何も無いんだから、そこに飛び出せるチームがもっと増えたらいいし、そういうことのきっかけに『HIDARI』がなれるといいなと。
Q:企画段階から数えると、完成までに何年かかることになるのでしょうか。
松本:トータルで10年がかりのプロジェクトになりますね。
川村:先が長い(笑)。本格的に企画を動かし始めたのが2021年から2022年ですから。公開は2030年頃かな。
松本:ピクサーでさえ1本の長編を作るのに5〜8年かかりますから、時間がかかるからといって諦める必要は全くありません。コマ撮りの素晴らしい点は、企画を長く温めてもルックが古びないこと。制作中にも様々なテクノロジーが登場するでしょうから、それらもどんどん取り入れていくと思いますが、最終的なルックが劇的に変わることはありません。そういう意味でも、安心して企画を寝かせておける強みがありますね。
Q:長編の完成を心から楽しみにしています。
川村:ありがとうございます。頑張ります!
松本:カンヌも頑張ってきます!

監督・脚本:川村真司
Whateverの共同設立者であり、20年以上にわたって世界を舞台に活躍する映像作家/クリエイティブディレクター。ストーリーテリングとテクノロジーを掛け合わせた作品づくりで知られ、テレビCMやミュージックビデオ、テレビ番組といった映像制作から、Lady Gagaのクローンや、大阪・関西万博2025におけるパビリオンの監修まで、その表現領域は多岐にわたる。こうした作品の数々は世界的にも高く評価され、アヌシー国際アニメーション映画祭でのクリスタル受賞をはじめ、国際エミー賞ノミネート、One ShowやClioといったアワードでグランプリも獲得。アメリカで育ったバックグラウンドを活かし、国境を越えたコラボレーションを通して世界中の観客の心に響くユニークなストーリーを生み出し続けている。
プロデューサー:松本紀子
広告映像業界からキャリアをスタート。1998年の『どーもくん』2003年『こまねこ』が転機となり、ドワーフの立ち上げに参加。タイムレスに楽しめる高品質なコマ撮りのコンテンツの制作で、日本のスタジオとしては、いちはやく配信のグローバル・プラットフォームとの仕事を始めた。Netflixシリーズ『リラックマとカオルさん(2019)』『リラックマと遊園地(2022)』が話題に。 現在はコマ撮りやキャラクターを強みとしながら、その常識を超え、手法や会社の枠にとらわれない新しい才能や技術を使った作品を企画し、さらには日本の枠を飛び越えて制作することを目指している。近作は第97回米アカデミー賞ショートリストにも選ばれた堤大介監督(元ピクサー)の短編映画『ボトル・ジョージ』。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
ストップモーション時代劇『HIDARI』
監督・脚本:川村真司
共同監督・キャラクターデザイン:小川育
キャラクターデザイン・木彫/美術デザイン:八代健志
プロデューサー:松本紀子/富永勇亮/大内雅未 他
制作会社:dwarf studios / Whatever Co. / TECARAT
公式サイト:https://hidari-movie.com/ja/
公式X:https://x.com/hidari_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/hidari_movie/
公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@teamhidari
©︎dwarf/Whatever Co./TECARAT