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【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12 実録版『ニュー・シネマ・パラダイス』~2つの名画座の終わり

【ミニシアター再訪】第23回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その12 実録版『ニュー・シネマ・パラダイス』~2つの名画座の終わり

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未来への手がかり



 しかし、何かが消えてしまった後、そこから別の物が生まれることも期待したくなる。『ニュー・シネマ・パラダイス』で初老となった主人公も、30年ぶりに戻った故郷で古い映画館の崩壊を目撃した後、最後にささやかな希望を見つけるからだ。


 未来への手がかりをつかみたくて、ヘラルド・エースの元社長(当時アスミック・エース特別顧問、Hara Office代表)の原正人プロデューサーにも話を聞いた。80年代に『ニュー・シネマ・パラダイス』の配給と宣伝を担当したのがヘラルド・エース。国民的人気作品を世に送り出した人物の映画の対する今の思いが知りたかった。


 「どうして、この映画がここまでヒットしたんでしょう?」と問いかけると、原プロデューサーからはこんな答えが返ってきた。


 「あの映画のテーマが人の心に届いたということでしょうね。昔、映画が好きだった人が見ると、かつての自分と現実の自分の対比から生まれるノスタルジーもあると思います。この映画の主人公は、故郷を捨てて都会で成功していますが、心は満たされていない。一番大切なものである家族や故郷の人々、そして青春の日々を忘れてしまった自分に気がついたからではないでしょうか。そういう部分も含め、見る人がどこかに自分を投影できる設定だと思います。作品が人の心に訴える力を持っていて、それがヒットに結びついたのでしょう」


 シネスイッチ銀座での初公開から約25年が経過し、映画館をめぐる状況も大きく変わってきた。劇場ではなくホームシアターで見る人も増えたし、電車でタブレットをのぞきこんでいる人の姿も珍しくない。


 そのため、ミニシアターや名画座など劇場を取り巻く環境が、以前より厳しいものになっているが、原プロデューサーは最近の傾向について「また、スクリーンで見なければいけない映画が生まれている気がしています」と、むしろ前向きな姿勢を見せる。


 「スクリーンで見なければいけない作品というのは、『ゼロ・グラビティ』(13)のように映画館の大画面で見ないと良さが伝わりにくい大作のことですか?」と切り返すと、「そういうのもあるけれど……」と前置きをした後、こんなコメントを残してくれた。


 「実は大林宣彦監督の『野のなななのか』(13)をスクリーンで見ました。これをテレビの画面で見ていたら、チャンネルを変えられてしまうかもしれないけれど、スクリーンで見ると、その世界に入り込むことができて、感動しました。つまり、感動を共有できる空間としての映画館が必要なんです。劇場が大きいか、小さいかの問題ではないです。家で見ていると、アクションやサスペンスなどに目がいき、じっくりと味わうタイプの映画を見ることがおっくうになりがちです。これは危険な兆候です」


 原プロデューサーはミニシアターの近年の洋画のヒット作についても語った。 


 「シネスイッチ銀座は勢いを取り戻しましたが、この劇場の最近のヒット作となった『チョコレートドーナツ』(12)や『クロワッサンで朝食を』(12)といった作品も、映画館でじっくり見るからこそ、いいんだと思います。こだわり型の映画をこだわり型の人たちと見ることをまた楽しんでほしい。心の飢えを満たしてくれるのは、映画の持つ力だと思うし、そういうものに対する潜在的なニーズはかならずあるので、新しい芽を探してほしい。こうした時代の今こそ、実はチャンスなのかもしれないですよ」


 原プロデューサーも劇場で楽しんだという『チョコレートドーナッツ』はシネスイッチ銀座で2014年10週間のロングラン・ヒットとなった。主演のアラン・カミングは一部の映画&舞台好きの人しか知らない男優で、共演者や監督は無名。商業的に見て派手な要素はなかったはずだが、予想を超える快挙となった。


 ふだんのシネスイッチはシニアの女性層が中心だが、この作品は若い観客の心もとらえた。


 こうしたヒットが明日の小さな芽になってほしい。 ミニシアター時代を切り開いたプロデューサーの話を聞いて、そんな気持ちになった。


(次回は渋谷を代表するミニシアターだったシネマライズの歩みを振り返る)




◉シネスイッチ銀座は中央区銀座4丁目にある 。14年に上映されていたウディ・アレン監督の『ブルージャスミン』(13)、ヒット作『チョコレートドーナッツ』(12)。



前回:【ミニシアター再訪】第22回 映画の街・銀座からの巻き返し・・・その11 シネスイッチの定番『ニュー・シネマ・パラダイス』 

次回:【ミニシアター再訪】第24回 渋谷系の流行、ミニシアターの熱い夏・・・その1 渋谷のカリスマ、シネマライズのはじまり

 

 

文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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