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『イエスタデイ』ダニー・ボイルとリチャード・カーティスの、ビートルズ愛に溢れたロマンチック・コメディ

©Universal Pictures

『イエスタデイ』ダニー・ボイルとリチャード・カーティスの、ビートルズ愛に溢れたロマンチック・コメディ

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ダニー・ボイルの音楽感覚



 ボイルは代表作『トレインスポッティング』(96)では90年代のUKロックとイギー・ポップのような古典的なロックを組み合わせ、新旧の音楽が楽しめるサントラを作り上げていたが、今回の映画でも新旧をからませる。旧の代表はビートルズだが、新の代表は英国出身の人気ミュージシャン、エド・シーラン(グラミー賞を4回受賞)。本人役で登場して、無名のジャックが世に出る手助けをする人物に扮して、『ペンギン』などの曲もギターを弾きながら披露する。


 本当はコールド・プレイのクリス・マーティンが出演予定だったが、かわりにシーランが出演して意外な好演を見せ、特にジャックとの“即興での曲作り対決”は見ものとなっている。シーランはビートルズ好きのミュージシャンとしても知られ、劇中の舞台、サフォーク出身でもある。そのせいか妙に自然に場所に溶け込んでいる。



『イエスタデイ』©Universal Pictures


 新旧、両方の音楽を取り込むことで、年配のビートルズ・ファンからシーラン好きの若い層まで幅広い観客にアピールできる内容になっている。


 90年代の人気バンド、オアシスをめぐるエピソードもおもしろい。ジャックはティーンの頃、学校のステージでオアシスのヒット曲「ワンダーウォール」を歌い、その様子を友人のリリーがうっとり見つめている。「君だけが僕を救える」「君は僕の魔法の壁」という内容が歌われるが、これは後にジャックを支えるリリーのことを意味しているのだろう。オアシスもビートルズの系譜上にあるバンドとして知られているが、その後、ビートルズが消えるとオアシスも地球上から消えている、という設定も笑いを誘う。


 ボイルらしいグラフィックなセンスが楽しめる場面もある。主人公ふたりがリバプールを訪ねる場面でマージ―・トンネルを歩くと、“ハロー”“グッドバイ”と書かれた大きな文字がそこを通り過ぎる。しかも、曲を大きく流すのではなく、サワリの部分だけを少しだけ聞かせる。主人公ふたりはこの街で一瞬だけ会って、お互いを意識するが、翌日には別れてしまう(まさに、“ハロー”と“グッドバイ”)。


ビートルズ『ハロー・グッドバイ』PV


 また、ヒロインの名前、エリーは「エリナー・リグビー」からとられ、ローディとなるとぼけた男、ロッキーの名前は「ロッキー・ラクーン」、エリーのルームメイト、ルーシーは「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」と、登場人物もビートルズ・ナンバーにひっかけてあるようだ。ここにあげたネタはほんの一部だが、全編にさりげない“小ネタ”がいっぱいで、そこには音楽通ボイルの遊びのセンスが感じられる。



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