ワーキング・タイトルの看板ライター、リチャード・カーティス
70年代は不調だったイギリス映画界が復興したのは80年代以降のことで、そんな中でも特に大きな役割を果たしてきた会社がワーキング・タイトルである。83年にティム・ビーヴァンとサラ・ラドクリフが設立し、スティーヴン・フリアーズ監督の『マイ・ビューティフル・ランドレット』(85)などを製作したが、92年以降はビーヴァンと製作者エリック・フェルナーが中心となり、数々の大ヒット作を作るようになった。
そのヒットメイカーのひとりとなっているのが、監督・脚本家のリチャード・カーティスで、脚本担当の『フォー・ウェディング』(94)が大ヒットを記録。続く『ノッティングヒルの恋人』(99)も人気作品となり、この2本に出演したヒュー・グラントは英国流ロマンティック・コメディの人気スターとなった。その後、ヒューも参加した『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)の脚色も手掛けた。監督としてはハートウォーミング・コメディの人気作『ラブ・アクチュアリー』(03)でデビューし、60年代の海賊ラジオ局を描いた『パイレーツ・ロック』(09)、ファンタジーの要素も入ったドラマ『アバウト・タイム』(13)も手掛ける。
今回の『イエスタデイ』は『アバウト・タイム』との共通点もある。この映画は主人公が戻りたい時間にタイムトリップできる、という設定のファンタジー・コメディだったが、この映画に通じるファンタジー的な要素が『イエスタデイ』にも入っている。
かつて『アバウト・タイム』で来日した時、カーティスは取材の時、こんなことを言っていた――「もし、世界が終わりの日が来たら、僕は特別なことなどせずに、友人や家族といつも通りの生活を送ると思う。普通の生活が1番だと思っているからね」
ファンタジー的な要素を入れても、ものすごく話を飛躍させるのではなく、日常生活の機微を描き、最後は“普通の生活”のすばらしさを見せる。それがカーティスらしさなのだろう。
『イエスタデイ』©Universal Pictures
主人公の男性が恋愛に不器用という設定は、『フォー・ウェディング』や『ノッティングヒルの恋人』にも通じるが、この映画に主演したヒュー・グラントに取材した時、「恋に不器用な人物像は、あなたに近いところもあるんですか?」と聞いたら、「あれはリチャード求める男性像だと思う。彼はロマンティストなんだよ」と言っていた。なかなか一歩前に進めない恋人たちのロマンスには、脚本家カーティスの個性が出ているようだ。
今回の『イエスタデイ』でも、ビートルズの音楽を基調にしながらも、最終的にはワーキング・タイトルお得意の心がほんわり温かくなるロマンティック・コメディとして着地する。