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『コマンドー』「シュワルツェネッガーそのもの」を味わう倒錯と至福の90分

(c)Photofest / Getty Images

『コマンドー』「シュワルツェネッガーそのもの」を味わう倒錯と至福の90分

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ジェームズ・ボンドを意識した小粋なセリフ



 『コマンドー』の大きなお楽しみポイントの一つは、主人公のメイトリクスが敵を倒すときに吐く、小粋なセリフの数々だ。例えば、旅客機の中で隣に座った悪党の首を一瞬でへし折ると、その死体に毛布をかけ、キャビンアテンダントに一言。


 「彼を起こさないでくれ、死ぬほど疲れてるんだ」


 悪趣味ギリギリのジョークだが、『コマンド―』では、悪党を倒す⇒ジョークを飛ばす、というパターンが繰り返される。


 中でも有名なのは、サリーという悪党の足をメイトリクスが片手一本で持ち、崖から宙づりにするシーンのこんなやりとりだ。


 シュワ「お前は最後に殺すと言ったな?」


 悪党「そうだ!助けてくれ!!」


 シュワ「あれは嘘だよ」


 と、手を離すメイトリクス。悲鳴とともに崖から真っ逆さまの悪党・・・。


 1985年、アメリカでは公開初日の劇場で、観客たちがシュワルツェネッガーより先にスクリーンに向かって「嘘だよ」と叫んでいたという。このシーンは予告編で何度も流され、観客はそれを気に入り覚えていたのだ。レスター監督もこう振り返っている。


 「映画が公開されるなり劇場は満員になった。そして観客は知っているセリフを先回りして声に出していた。「嘘だよ」もその一つで、とても有名になった。映画史に残ると言っても良い流行のフレーズだったよ」



『コマンドー』(c)Photofest / Getty Images


 このようなジョークをいれるアイデアはシュワルツェネッガー本人の発案だった。彼は脚本家に、気の利いたジョークをいくつも考えさせ、それを何パターンも撮影したという。監督のレスターも大変乗り気で、ジェームズ・ボンドを意識したと語っている。しかし、大きな問題があった。先述した、シュワルツェネッガーの訛りの強い英語だ。


 『コマンド―』の中で、撮影が最も大変だったのは、数あるアクションシーンではなく、実は会話のシーンだったという。中でも監督のレスターを悩ませたのが、ショッピングモールでメイトリクスが相棒の女性、シンディに悪党をおびき出すように話すシーンだった。


 「全編で一番長いセリフだ。撮影に長時間かかった。うまく話せるまで何度も撮り直した。スタジオの重役が来ていたから現場には緊張感がみなぎっていたよ。アーノルドがセリフを間違えるたびに皆ハラハラしていたね。特に重役のローレンス・ゴードンは不満げだったよ。『彼に話させるなと言っただろう!』とね。結局無事に終えたが、撮影の長さに彼らは閉口していたよ(笑)」


 と監督が述懐する問題のシーンだが、長さは、わずか30秒ほどだ。それほど、シュワルツェネッガーの英語力には不安があったということだろうが、そんな彼が言えるジョークは勿論短いセンテンスである必要がある。脚本家はいかに短いセリフで 効果的なジョークになるかを試行錯誤した。その結果が『嘘だよ』という名台詞の誕生につながったのだ。



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