『ネメシス』知る人ぞ知るB級SFアクションの名品！「未来感のない未来」と独特のアクションシーンで作り上げた唯一無二の世界観

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2019.11.29稲垣哲也

監督の解雇によって現れた「いびつな傑作」

　キャストとスタッフを鼓舞しながらピュンはアクションてんこ盛りの映画を8週間で無事に撮り終えた。しかし、作品は彼が思った通りに仕上がらなかった。一回目のラフカットが完了した時点でピュンは監督を解雇されたのだ。彼は撮影手法などをめぐりプロデューサーと度重なる衝突を起こしており、そのためにファイナルカットまでの作業に関与できなかったのだ。だから音楽も自分の好みの物を使えず、しかもワイドスクリーンサイズで撮影していたにも関わらず、テレビ放映を意識したプロデューサーが、4対3のサイズに画角を切ってしまったという。

　構成も大幅に変更されたため、「ストーリーが伝わりづらくなった」とピュンはぼやく。しかし、筆者はこのような事情があったからこそ、『ネメシス』は傑作になりえたのではないかと考えている。

　『ネメシス』のストーリーはシンプルなようで、分かりづらい。主人公のアレックスはサイボーグ組織の陰謀を阻止するために行動しているのだが、ストーリー上の要素がうまく語られていないという印象をうけるのだ。しかも後半はジャングルや、廃墟での銃撃戦が続くため、一種独特の雰囲気の中、主人公が出口のない迷宮に迷い込み、行動原理があいまいなまま、夢の中で闘っているかのような雰囲気になっていく。

　ピュンが説明したいと思っていた要素をプロデューサーが切り落とし、ユニークなアクションシーンの連続にしたために、いびつな構造が出現、結果としてそれが作品自体に独特の世界観を付与するというプラスの作用が働いたのではないだろうか。

　『ネメシス』の魅力には確かに偶然の要素が大きく関係している。しかし、その土台にはアルバート・ピュンという稀代の職人監督の情熱と技術があったこともまた確かだ。彼は2013年に多発性硬化症を発症したが、その後に病状が改善、2018年にも作品（日本未公開）を発表している。現在最新作も制作中と伝えられており、「これが私の最後の作品になる」と語っているが、是非新作を発表し続けてもらいたい。映画ファンの最大の味方は彼のような職人監督に他ならないと筆者は信じているからだ。

参考：『ネメシス』Blu-ray音声解説

※文中のピュン監督のコメントは全てBlu-ray収録の音声解説から引用しました

取材・文：稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー　マンガに革命を起こした男』（WOWOW）『たけし誕生　オイラの師匠と浅草』（NHK）『師弟物語～人生を変えた出会い～【田中将大×野村克也】』（NHK BSプレミアム）。

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