プロデューサーと監督の信頼関係が生んだ、新しいSF映画
インターネット検索で有名なIT企業でプログラマーとして働くケイレブが、抽選に当たり、謎に包まれた社長の自宅に招かれる権利を得るところから、物語は始まる。ヘリコプターで向かった先は、フィヨルドを思わせる広大な山岳地帯の中にポツンと佇む一軒の邸宅。待ち受けていた社長のネイサンが見せてくれたものは、高度なAIロボットとその開発施設だった。AIの完成度を検証するテストを依頼されたケイレブは、エヴァという名の美しい女性型AIに惹かれてしまい、その結果、思わぬ事態が引き起こされていく。
少数のキャストによる、一軒の邸宅の中だけで進行する密室劇。派手なアクションも仕掛けもないシチュエーションで、約2時間を飽きさせずに展開する、緊張感ある演出と脚本が秀逸だ。
『エクス・マキナ』Film (C) 2014 Universal City Studios Productions LLLP. All Rights Reserved.
監督と脚本を手がけたのはアレックス・ガーランド。26歳の時に出版した小説「ザ・ビーチ」が『トレインスポッティング』(96)で名を挙げたダニー・ボイルによって映画化。その後、脚本家としてダニー・ボイル監督『28日後…』(02)、『サンシャイン2057』(07)に参加。ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロ原作による『わたしを離さないで』(10)では製作総指揮・脚本を担当。小説家→脚本家→プロデューサーという珍しい経歴の末、本作で監督デビューしたクリエイターである。
ガーランドが関わった作品のほとんどが、プロデュースはアンドリュー・マクドナルド。「私はアンドリュー・マクドナルド映画学校の生徒だ」とガーランドが自称するほど、信頼関係で結ばれている二人。「監督デビューするならガーランドにしか作れないオリジナルの映画を作る」という共通理解のもと、温めてきた企画が本作だという。
なるほど、確かにそうだ。ガーランドは「ザ・ビーチ」以降、常に人間と社会の行方を見透し、時にはより深い洞察を追求する結果、SF的世界観にたどり着くアプローチをしてきた。また、彼はもともと日本文学に傾倒し、カズオ・イシグロとも深く意気投合していたほど、日本文化のミニマリズムを理解する作家である。(ちなみに『わたしを離さないで』撮影時、マーク・ロマネク監督と侘び寂びについて追求していたという)。
そしてマクドナルド氏が手がける企画はハリウッド大作ではなく、イギリスで製作されるインディーズ映画が多いため、予算規模は初めから決まっている。本作は、その制約と得意分野を踏まえて一幕ものに仕立てられた戦略的な企画であり、脚本だった。
また、ミニマムな物語であるからこそ、キャラクターが動く舞台設定が重要になる。本作はSF映画をアップデートしたと評する人もいるほど、高い評価が存在する。その理由は、本作の舞台設定が秀逸で、新しい未来像に対しての強い「説得力」を帯びているからだと想像する。
例えば『ブレードランナー』(82)が名作たる所以は、誰も見たことがない新しい未来像をはっきりと提示したことにある。キラキラした輝く未来は本当に来るのだろうかという、多くの人が何となく感じていた集合的無意識に対し、酸性雨が降るような、真逆の世界を具体的にビジュアライズして見せた驚きだ。
本作では、ネイサン(確実にgoogle創業者をイメージしている)のように非常に現代的なITの超富豪は、どんな人間でどんな生活をしているのかという謎に対し、嘘くさくないリアリティと、こうあってほしいという人々の無意識の希望を、絶妙なバランスで具体化している。この困難な課題を実現したのは、マーク・ディグビー率いる美術チームだ。