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『エクス・マキナ』インディーズ映画の可能性をアップデートした、アカデミー視覚効果賞受賞の新しいSF映画

(c)Photofest / Getty Images

『エクス・マキナ』インディーズ映画の可能性をアップデートした、アカデミー視覚効果賞受賞の新しいSF映画

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困難を乗り越えたホワイトハースト



 本作の見所の一つは、二人の人間と対峙することになる女性A.I.エヴァの描写である。顔や手先など微細な動きを伝える部分とメッシュ素材で覆われた部分以外、腕や胴体、足など、筒状の部分がシースルーになっており、人間の筋組織に近い機構が見えているデザインとなっている。


 通常、このようなデザインを表現するためには、人物をパフォーマンスキャプチャーで撮影しそれを元にエヴァのCGを制作、撮影した背景に合成させるという方法がとられる。代表的な例はジェームズ・キャメロン製作の『アリータ:バトル・エンジェル』(19)などが分かりやすいだろう。


『アリータ:バトル・エンジェル』予告


 しかし本作では、予算が限られているためパフォーマンス・キャプチャーのような大掛かりな撮影は到底出来ない。また、役者の演技をCGで再構築するのではなく、そのまま生かしたいという意図もあった。そこでとられた方法が、撮影した素材に合わせて一コマづつCGを書き足していくというものだった。


 この気の遠くなるような作業に加えて、さらなる不運がCGチームを襲う。それが前述したアナモフィックレンズの使用だ。通常、CG制作のソフトには、カメラレンズのデータがインストールされており、撮影で使用したレンズのデータに合わせてCGを制作する。これによって合成した際の馴染みがより自然になるのだ。しかし今回のレンズは古かったため、何とデータがCGソフトの中に入っていなかった。結果としてCGチームは、撮影素材により馴染むよう、実際の背景と見比べながらCGを調整していく作業が必要となってしまったのである。



『エクス・マキナ』Film (C) 2014 Universal City Studios Productions LLLP. All Rights Reserved. 


 しかし、VFX担当のホワイトハーストは、ダブルネガティブ、ミルク、ユートピアのCG制作会社3社と連携をとり、緻密なマネージングによって、この困難な作業を見事乗り越えたのだった。



インディーズ映画が示す新しいビジョン



 世界中を地道に探してたどり着いた素晴らしいロケ地と、リアリティあるスタジオセットによって、俳優が演技に集中できる環境が揃う。まばたきをせず、かしげる首の角度まで意識を研ぎ澄ませた、ヴィキャンデルの計算され尽くした演技に、観客はA.I.と人間の心理戦に引き込まれていく。


 そんな中で、ひっそりと佇むような存在のCGだが、クオリティは非常に高い。本作のような抑制の効いたVFXのありようは、他のノミネート作品とは全く趣が異なっていた。授賞式で壇上に上がったのはVFXチームだったが、エヴァ役のヴィキャンデルの姿も重ねて見ていた人も少なくないと思う。ひいては、視覚効果に一丸となって取り組んだメインスタッフ達も評してあげてもいいのではと思えるぐらい、本作のビジュアルが群を抜いて完成度が高かったのだ。



『エクス・マキナ』Film (C) 2014 Universal City Studios Productions LLLP. All Rights Reserved. 


 ネットフリックスに代表される定額制配信によって、世界中の会員の視聴データが集まり、A.I.によるストーリー開発が進む未来はあり得るのだろうか。しかし、昨今のアカデミー賞の傾向を見ると、そんな今だからこそ、知恵を持った人間が悩み苦しみ、思いがけない出会いをチャンスに変えながら地道に作り続ける姿勢を、期待している気がしてならない。


 インディーズ映画の持つ、新しいビジョンとテーマの多様性、そして制約だらけの制作環境に立ち向かうスタッフの熱量を、どこかで信じてくれている。本作の視覚効果賞受賞はそのようなメッセージに思えてならない。



参考

https://www.moviemaker.com/archives/inside-mm-directing/intelligent-artifice-alex-garlands-smart-stylish-ex-machina/

https://www.motionpictures.org/2015/06/ex-machina-production-designer-mark-digby-on-redefining-sci-fi/

https://filmmakermagazine.com/94316-dancing-in-tungsten-light-dp-rob-hardy-on-ex-machina/#.XgLBzJP7TdQ

https://www.studiodaily.com/2016/02/vfx-supervisor-andrew-whitehurst-on-ex-machina/

https://mubi.com/hi/notebook/posts/sketch-to-screen-production-designer-mark-digby-discusses-ex-machina

https://www.theguardian.com/film/filmblog/2016/feb/25/dont-knock-cgi-its-everywhere-you-just-dont-notice-it

https://www.fxguide.com/fxfeatured/ex-machina-the-making-of-ava/

https://www.dneg.com/ex-machina-wins-best-vfx-oscar/



文:江口航治

映像プロデューサー。広告を主軸に、メディアにこだわらず幅広く活動中。カンヌはじめ国内外広告賞多数受賞し、深田晃司監督『海を駆ける』(18)やSXSWへのVR出展など、様々な制作経験を経たプロデューサーならではの視点で寄稿。「note」でも投稿中。



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作品情報を見る




『エクス・マキナ』

Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税

発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント

Film (C) 2014 Universal City Studios Productions LLLP. All Rights Reserved. 

※ 2019年12月の情報です。


(c)Photofest / Getty Images

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