ジョン・ヴォイトとダスティン・ホフマンの歴史的な名演
この映画を見て誰もが深く心を動かされるのが、ふたりの主演男優の演技ではないかと思う。最初にキャスティングされたのはラッツォ役のダスティン・ホフマンである。シナリオライター候補のひとりだった劇作家のジャック・ギルバーがオフ・ブロードウェイの舞台“Eh?”に出演していたホフマンを推薦したのが事の始まりだった。原作でのラッツォはこんな風に描写されている――「体格は子供なみで、やせこけて(いた)」。ヘルマンは小柄なホフマンにぴったりの役だと思った。
監督のシュレシンジャーに会うことになっていた日、ホフマンは乞食のようなかっこうをして、通りで小銭をねだっていたそうだが、こうした行動も決め手となって、ホフマンは役を手にいれた。シナリオがなかったため、原作を読みながら役作りについて考えたようだ(後に撮られた『卒業』(67)の方が、結局、先に公開され、ホフマンは一躍、時の人となった)。『真夜中のカーボーイ』でホフマンは『卒業』に続き、2度目のオスカー候補となっている。
ラッツォ役候補はホフマンひとりに絞られていたが、カウボーイ役には最初、別の俳優が決まりかけた。『ひとりぼっちの青春』(69)に主演したマイケル・サラザンである。ところが、映画会社との契約もあってマイケルは最初の予定されていた3倍のギャラを要求してきて、話が暗礁に乗り上げた。他にもカウボーイ候補の男優は何人かいて、舞台や映画に出演していたジョン・ヴォイトも最終候補のひとりだった。そこでホフマンに相談したら、彼はこんなことを言ったという――「他の男優たちとのカメラテストの映像では思わず自分の演技を見てしまう。でも、ヴォイトとの演技では彼を見てしまう」
そんな言葉も決め手となり、新人のヴォイトがカウボーイ役に抜擢された。ヴォイトはそれまでフィリップ・カウフマンやジョン・スタージェスなどの監督作に出ていたが、この映画で初めて大きな注目を受け、アカデミー主演男優賞候補となった。
地方から出てきて、都会での成功を夢みるカウボーイ。都会をこれまでの知恵で生き延びようとするラッツォ。電気も、暖房もない部屋で暮らすふたりのどん底生活はあまりにも悲惨だが、ふたりの男優たちの温かみを感じさせる演技のおかげで、彼らの絆にこちらも心を動かされる。笑顔に少年のようなあどけなさを残し、自然体の演技を見せるヴォイト。都会の裏側を歩いてきた人物の屈折を凝った役作りで見せるホフマン。本物の実力を秘めた新人俳優の起用によって、歴史に残るリアルな名演が誕生したのだ。