2020.03.12
成長したってツラさが増すだけ
多くの「大人になれない男」を描いた映画では様々な苦難や問題に対し、最終的に「成長」することでブレイク・スルーした姿を、観客は「あぁ、清々しい!」と見守るような展開をする。
たとえば『マジック・マイク』(12)では享楽的なストリッパーの日々から、とにかく一度足を洗う決心をするところで終わる。『40歳の童貞男』(05)はシングルマザーと付き合う決心をした主人公が趣味で集めていたアクション・フィギュアを売り払う。
しかし、それは本当に幸せなのだろうか?
『マジック・マイク』予告
ストリッパーの世界にはストリッパーなりのやりがいやブレイクスルーがあって、それなりの苦労の末の達成感もあるだろう。シングルマザーと付き合うことと、アクション・フィギュアをコレクションすることに何の齟齬も無いはずだ。
『マジック・マイク』ではもともと起業するための資金集めとしてのストリッパー業だったことが描かれるし、『40歳の童貞男』のアクション・フィギュアは「子供っぽい心もち」の記号ではあるが、いずれにせよ「成長」することが即ち「幸せ」や「清々しさ」と直結した展開をしていく。成長するに越したことは無いと一般的には言える。「成長したなぁ!」とは、おおむね褒め言葉だ。
しかし『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』のゲイリーは、若者が憧れるような無意味で野放図な生活をぼんやりと夢見たまま、40歳近い中年になってしまった。もう「成長」なんて視野に無いし、したところで寿命は伸びても心痛と苦労も比例して増えるだけ。
『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.
仲間を集めてパブクロール(パブ巡り)をしたのも、死ぬ前の「最期の晩餐」的な意味であっただろう。アンディにビールを飲ませろと泣きついた時にあらわになるゲイリーの両手首には病院のタグとリストカットの傷を覆う包帯が巻かれている。
その姿を見たアンディは、自分の自由の象徴であり憧れのゲイリーが苦しむ他に無い「世界」の「終わり」を選ぶのだ。つまり「ワールズ・エンド」である。