2020.07.23
火星を描く、子どもの頃からの夢をかなえたカーペンター
舞台は西暦2176年、人類が植民地を築いている火星。上官の事情聴取を受けている火星警察の女性警部補メラニー・バラードの回想によって物語は進行する。隊長ブラドックの指揮の下、総勢5名で凶悪囚人ウィリアムズを護送する命を受けた彼女は、鉱山町へと列車で向かう。しかし、そこはどういうわけかゴーストタウンと化していた。やがて姿を現わす、ボディペインティングやピアスを施した、異様な姿の住民たち。火星先住民の霊に憑依され、狂暴化した彼らとの死闘を、バラードはどうやって生き延びたのか?
火星を舞台にした映画をつくることはカーペンターの長年の夢だった。というのも、彼が子どもの頃にふれたSF映画や小説の多くは火星を舞台にしていたから。そんなノスタルジーをバネにして、創作の中で火星が長年にわたり象徴してきたもの――たとえば人間の愛や欲望、戦争など――を今一度、ドラマに組み入れようとしたのだ。幸いにも彼が書いたシナリオはスタジオに受け入れられ、製作にゴーサインが出される。
『ゴースト・オブ・マーズ』(c)Photofest / Getty Images
製作時の最大のトラブルは、主人公バラードを演じる予定だったコートニー・ラヴが撮影の2週間前に降板したことだった。公式には脚の捻挫による降板とアナウンスされたが、カーペンターはその理由について、DVD収録の音声解説では言葉を濁している。
とにかく、代役は必要だ。護送隊員のひとりを演じる予定のリーアム・ウェイトは、当時婚約していたナターシャ・ヘンストリッジを推薦する。『スピーシーズ 種の起源』(95)のエイリアン役で鮮烈なデビューを飾って以来、彼女は精力的に映画に出演し、スター街道を歩んでいた。ウェイトの提案は受け入れられ、撮影開始の一週間前に、ヘンストリッジの出演が正式に決定。アクションの多い役で肉体的なトレーニングは必須だったが、幸いにも彼女には空手を習っていた経験があり、それが演技に活きることになった。