1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ドア・イン・ザ・フロア
  4. 『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。
『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。

(c)Photofest / Getty Images

『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。

PAGES


40年に渡る壮大なメロドラマを、ひと夏の出来事に凝縮



 アーヴィングには長い時間軸を描く作品が多く、映画化する際には取捨選択で大鉈を振るう必要が出てくる。例えば『サイダー・ハウス・ルール』は原作では15年に及ぶ物語で、映画版は数年の出来事に圧縮されている。「未亡人の一年」も40年間に渡る壮大なメロドラマなのだが、第一章に限って言えば、わずかひと夏の物語なのだ。


『サイダー・ハウス・ルール』予告


 『ドア・イン・ザ・フロア』の1時間52分という上映時間は決して短くはないが、極端に長いわけでもない。第一章の物語がほぼまるごと収まる尺なのだ。ウィリアムズは、テッドとマリアンの夫婦の終焉、後に作家の才能を発揮する4歳のルースが見た世界の姿、16歳のエディの少年期の終わり、マリアンの絶望、テッドの孤独といった複雑に折り重なる要素を、決して端折るわけでもペースを落とすわけでもなく、描くことができたのである。


 そしてウィリアムズの彗眼は、第一章をうまく脚色すれば、原作全体の核を捉えることが可能だと気づいたことだった。原作の展開すべてを知らされなくても、観客はアーヴィングが描いた“喪失”の深さをしっかりと感じ取ることができるのだ。


 またウィリアムズは、セリフの描写の端々に、第二章、第三章の要素も巧みに織り込んでいる。原作を読んでから映画を観ると、主人公たちがどういう人物で、何に苦しみ、どう生きていくのかを知るための膨大なヒントが、ちょっとした場面に組み込まれていることに驚く。『ドア・イン・ザ・フロア』は、ただ「未亡人の一年」の第一章を切り出して映画化しただけではないのである。


 筆者が戦慄すら覚えたのがラストシーン。ネタバレを避けるため具体的には書かないが、映画の中では描かれることのないある人物のその後の選択が、一言の説明セリフもなく暗示されているのだ。筆者は先に映画を鑑賞してから原作を読んだので、映画を観て感じた不穏な予感が小説の第二章で的中した時には、必要なことを簡潔に伝える映画の表現力に感服せずにいられなかった。もし原作未読であれば、先に映画をご覧になることをおすすめしたい。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ドア・イン・ザ・フロア
  4. 『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。