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『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。

(c)Photofest / Getty Images

『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。

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撮影当時4歳にして天才っぷりを発揮したエル・ファニング



 本作の出演陣の素晴らしさについても触れておきたい。


 カリスマ性を備えた人気作家で、女たらしの策士だが愛情深い父親でもあるテッド・コール役はジェフ・ブリッジス。正邪が曖昧で複雑な人物像に愛嬌を加えた演技はアカデミー賞ものだったと思うのだが、ブリッジスが初のオスカー像を獲得するには5年後の『クレイジー・ハート』(09)まで待たねばならなかった。またブリッジスは、挿絵画家でもあるテッドが劇中で描く絵も、テッドに成り代わって実際に描いている。ちなみに『ドア・イン・ザ・フロア』というタイトルは、劇中でテッドが著したダークな内容の児童書の題名から取られている。


 キム・ベイシンガーが扮したマリアンは、16歳の少年エディと性的関係を持つなどテッド以上に倫理的に問題が多い役といえる。しかしベイシンガーは感情表現を最小限に抑え、ドライかつクールに演じながらも、底知れぬ哀しみを完璧に伝えてみせている。彼女のキャリアでも最高の一本であると断言したい。


 そして、本作が改めて再注目されるべき幾多の理由のひとつが、テッドとマリアンの娘ルースを、当時4歳(撮影中に5歳の誕生日を迎えた)だったエル・ファニングが演じていることだろう。



『ドア・イン・ザ・フロア』(c)Photofest / Getty Images


 エルの映画デビューは『アイ・アム・サム』(01)。姉ダコタ・ファニングが演じた少女の2歳の姿として登場しているが、『ドア・イン・ザ・フロア』に出演した時点で、子役というよりブリッジスやベイシンガーと並んでも遜色ない、俳優としての佇まいで映っていることに驚かされる。現在のエルが才能あふれる若手俳優の筆頭であることは周知の事実だが、4歳の時にすでに画面をかっさらう存在感を発揮しているのだ。


 DVD収録のメイキング映像では、ウィリアムズらがこんなエピソードを披露している。ルースが泣き叫ぶシーンの撮影で、演じているエルがパニックに陥ったと思い込んだブリッジスが心配して狼狽してしまったが、カットの声がかかるや、エルは笑いながら遊びに行ってしまったというのだ。なんとも恐るべき大物伝説である。


 前述したように、ルースは原作小説の「未亡人の一年」ではすべての章を通して登場し、物語を牽引する重要なキャラクターだ。映画『ドア・イン・ザ・フロア』においても、まだあどけない少女時代とはいえ、テッドやマリアンと同様に兄たちの死を身近に感じて育ち、父譲りのダークな感性を持つなど、まったくもって単純な子供ではない。


 ルースという役には、映画で描かれないその後も想像させる深みが必要だった。エル・ファニングという天才がいなければ、第一章をベースに原作全体の精神をつかみ取るというウィリアムズの構想も、アイデア止まりで終わっていたかも知れない。



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