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『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。

(c)Photofest / Getty Images

『ドア・イン・ザ・フロア』米アメリカ文学界の巨匠ジョン・アーヴィングを納得させた、新鋭監督の映画化アイデアとその手腕とは。

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トッド・ウィリアムズ監督の呪われたその後



 残念なことに、『ドア・イン・ザ・フロア』は批評家から高く評価されたものの、映画賞レースを賑わせることも、興行的な成功を収めることもできなかった。原因はわからない。登場人物の誰一人として“倫理的に正しくない”物語が多くの観客に受け入れられなかったのか、小説の1/3のみ映画化するという構成が原作ファンに嫌われたのか。記事の最初に述べたように、ただ数多ある“不幸な道行きをたどった映画”の一本というだけなのかも知れない。


 しかしアーヴィングは完成した本作をいたく気に入り、DVDの特典映像にも登場して、本作の脚色がいかに素晴らしい脚色であるかを、作家目線から詳細に分析、解説している。いくら自作の映画化だとはいえ、押しも押されもせぬ大作家アーヴィングが情熱を持って他人の才能について熱弁を振るっているのだから、監督のウィリアムズも鼻が高かっただろう。


 ところが、だ。新進気鋭の映画監督として前途洋々だったはずのウィリアムズのキャリアは本作を機に急降下してしまう。次に映画ファンがウィリアムズの名前を耳にしたのは6年後。超低予算ホラー『パラノーマル・アクティビティ』(07)の二匹目のドジョウをねらった『パラノーマル・アクティビティ2』(10)の監督としてだった。


『パラノーマル・アクティビティ2』予告


 『パラノーマル・アクティビティ2』は一作目の追い風に乗って興行的にはヒットしたものの、『ドア・イン・ザ・フロア』と監督が同じであるという事実に気づいた観客はほとんどいなかっただろう。ウィリアムズは2016年にもスティーヴン・キング原作、脚本のホラー映画『セル』も撮っているが、イーライ・ロスが降板した企画を引き継いだ、いわば雇われ仕事であり、アメリカでは劇場での限定公開前にネット配信されるなど、丁寧な扱いを受けた作品だとは言い難い。


 ウィリアムズのフィルモグラフィは2020年時点でも長編は4本のみ。結果的にホラージャンルの監督という印象に寄ってしまっている。もちろんホラーで本領を発揮したり、ジャンル映画への愛情にあふれる映画作家も大勢いるが、ウィリアムズが『ドア・イン・ザ・フロア』という繊細な人間ドラマを手がけた以上の仕事を、その後のホラー作品で成し遂げたとは到底思えない。


 『ドア・イン・ザ・フロア』が再評価され、ウィリアムズの才気と嗜好が活かされた新作映画に出会えることを願ったまま16年が経ってしまった。果たして本作は、映画業界から見放されてキャリアを棒に振るような駄作なのか、筆者が主張するような繊細で巧緻な傑作なのか。興味を持っていただけるなら、ぜひその目で確かめていただきたい。



参考資料

http://www.indielondon.co.uk/film/door_floor_williamsQ&A.html

・『ドア・イン・ザ・フロア』DVD特典映像



文:村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。 



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