三者三様のキャラクターの「顔見世」
ここからはいよいよ、『レオン』の中身についてつづっていきたい。本作はとかく、メインとなる3人のキャラクターの魅せ方が、鮮烈だ。
寡黙な殺し屋レオンは、パーツごとに見せていくスタイルをとっている。丸いサングラスをかけた目のアップ、口ひげ、牛乳といった印象的な画を短いテンポで映したのち、彼の表情があらわになるのは暗殺シーン。闇に浮かび上がるようにぬるりと顔を出したレオンは、ターゲットの首筋にナイフを押し当てて恫喝し、仕事が終わるとまた闇に消えていく。
ミステリアスな一連のシーンを経て、ようやく全身が確認できるのは、冒頭とは打って変わって平和な日常描写。白いTシャツに胸元が空いた黒のウールコート、ニットキャップに丸いサングラス。ジャン・レノの特徴的な鉤鼻もあって、まるでバンド・デシネから抜け出てきたような独特の風貌に目が釘付けになる。しかも手に持っているのは、牛乳が入った鞄。冒頭の断片的に見せる演出も相まって、一度見たら忘れられない強い印象を植え付ける。
彼がアパートの階段を上っていく先で待っているのは、廊下の手すりから足をのぞかせている孤独な少女マチルダだ。黒いチョーカーにボブカット、口にはたばこと少女のイノセントな魅力と、厭世的な色香が混在している。さらに目元には、父親に殴られたあざが浮かんでおり、悲劇性も象徴。2,000人以上の候補者から選ばれ、本作で映画デビューを果たしたナタリー・ポートマンの圧倒的な魅力に打ちのめされるが、彼女の「目」を最初に観客に見せるという引き立たせ方も抜群に上手い。
『レオン 完全版』(c)Photofest / Getty Images
レオンはパーツのアップ、マチルダは柵越しの目と、劇的な演出でキャラクターの初登場を飾り立てている本作だが、ゲイリー・オールドマン扮するスタンスフィールドの初登場シーンは、あえて背後からのショットを選択し、不気味さを醸し出させている。この三者三様の「顔見世」は、キャラクターを観客にインプットさせるうえでも実に有益だ。
ちなみに、振り向いたスタンスフィールドがマチルダの父親(マイケル・バダルコ)のにおいをかぐシーンは、オールドマンのアドリブだったとか。得体のしれない彼の動きに恐怖するバダルコの表情がリアルなのは、本人も予想外だったからだという。スタンスフィールドがベートーベンについて力説するシーンも即興で、オールドマンの表現力には脱帽させられる。
その後、レオンが観葉植物を愛していること、彼がコートを脱ぐと全身に手りゅう弾や銃といった武器を装備していること、マチルダが家族から虐げられて生きていることなどが描かれ、スタンスフィールドがドラッグをキめ、指揮者のように体を動かしながらマチルダの家族を惨殺するシーンでは、彼の異常性がゾクゾクと伝わってくる。
出演陣の熱演に、キャラクターの個性をしっかりと乗せたつくりは、今観ても“キャラもの”のお手本と言いたくなるほどに見事だ。この部分も、本作が時代を経ても新たなファンを増やし続け、映画を問わず多くの後続作品からオマージュをささげられているゆえんの1つだろう。