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『アニー・ホール』ウディ・アレンとダイアン・キートン、ふたりの友情の始まり

(c)Photofest / Getty Images

『アニー・ホール』ウディ・アレンとダイアン・キートン、ふたりの友情の始まり

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ダイアン・キートンとの永遠の友情



 アレン映画の中でも特にベスト作品の1本としてあげられる作品だが、都市で生きる男女のライフスタイルを先取りした作品だったのではないだろうか。


 この映画がアカデミー作品賞を受賞した時、対抗馬は大作『スター・ウォーズ』(77)だったが、その受賞理由についてアメリカの評論家ダグラス・ボードはアレンの研究書、“The Films of Woody Allen”(Citadel Press刊)の中のこう分析しているーー「なぜ、(この小品が)アカデミー賞を受賞したのか不思議に思う人もいるかもしれないが、フェミニズム以降、男女の関係が変化しつつあり、この映画のニューロティックなふたりは自分たちの問題を反映したカップルとして歓迎されたのだろう」


 アルヴィーは漫談家、アニーは歌手を夢見る女性という設定でお互いに自分の世界があり、都市で文化的な生活を追求している。そんな男女の描写がすごくイキイキとしていて、ふたりのやりとりにリアリティがあるから、多くの人の支持を得たのだろう(かつては恋人同士だったアレンとキートンが主人公を演じているので、感情の描写にウソがない)。


 アレンとキートンが出会ったのは戯曲『ボギー!俺も男だ』のオーディションの時だという。前述の自伝の中でアレンはこう回想している――「この作品の上演にあたって、私たちはリンダ役の女優を探すことになった。演出家はジョー・ハーディで、優秀な彼は自分のやるべき仕事を理解していた。私たちは劇場にすわって、次々に才能ある女優たちのオーディションを行った。いい女優は大勢いるのに、女性のために書かれたいい役は少なかった」


 アレンはある演劇教師に優秀な女優がいることを知らされる。「彼女の名前はダイアン・キートン。本名はダイアン・ホールだった。しかし、すでに同じ名前の女優がいて、演劇組合の許可が得られず、別名を使うことになった」とアレン。そして、オーディションに現れたダイアン・キートンのことを「まるでハックルベリー・フィンを美しい女性にしたような印象だった」と表現する。



『アニー・ホール』(c)Photofest / Getty Images


 「彼女には愛嬌とユーモアのセンスがあり、すごくオリジナルなスタイルを持っていて、リアルで新鮮だった」。


 そして、仕事の後、たまたま食事に行った時、彼女の魅力に改めて気づいた。「別の女性とデートの約束を入れている自分が愚かに思えてきた。彼女はすごく輝いているではないか」。


 こうして付き合いが始まる。「彼女は写真を撮るのもうまいし、演技は見事だし、歌う時は美声を披露する。踊りもうまく、文才もある。出会った時から僕たちは友達となり、(中略)彼女は僕を導く北極星であり続ける」


 キートンが写真を撮るのが得意で、歌もこなせる、という設定は、『アニー・ホール』の中でも生かされている。


 共同作業についてはこう回想する――「彼女のために脚本を書き、一緒に仕事をしてきたが、その時期に関しては誤解もあるようだ。(中略)『愛と死』(75)、『アニー・ホール』や『マンハッタン』(79)を撮った頃、世間では一緒に暮らしていたと思われていたようだが、その頃は友人同士になっていた。企画について話を持ちかけると大喜びで乗ってくれた。だから、僕はそのアイデアを脚本という形で書けばよかった」


 アレン映画への出演によってキートンはオスカー女優となり、また、ニューヨークの洗練をカジュアルな形で表現した“アニー・ホール・ファッション”は世界的な大流行となり、多くの女性たちが憧れる“等身大の魅力のある女優”となった。


 『アニー・ホール』からすでに40年以上が経過したが、入れ替わりの激しいハリウッド映画界において、キートンは息の長い女優となり、最近では『チアアップ!』(19)に主演している(「ダイアン・キートン自伝 あの時をもう一度」(早川書房刊)等のエッセイ集も出版)。


 アレンの自伝“Apropos of Nothing”の本文中には写真がないが、裏表紙に1枚だけ19年に撮られたポートレートが掲載されている。大きなソファにすわり、ボーダー柄のソックスだけが妙に目立つユーモラスな写真。その撮影者は、なんとダイアン・キートンである。


 アレンとキートンは映画の中の人物同様、恋人関係を解消するが、実は恋より確かなものが残った。『アニー・ホール』は男女の別離ではなく、実はふたりの友情の始まりの物語かもしれない。



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「週刊女性」、「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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